研究課題/領域番号 |
25440209
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小菅 桂子 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50215266)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表現型可塑性 / 環境応答 / 気孔形成 / 転写因子ICE / アブシジン酸 / NCED / 水生植物 |
研究概要 |
本研究は水生植物,ヒルムシロ属の姉妹群おいて生育環境に応じた表現型可塑性(気孔形成)の進化過程を遺伝子発現と種分化の観点から検証するものである。平成25年度は,水陸両生型のササバモと淡水―汽水域・完全沈水生型のヒロハノエビモを材料として解析を行い以下の成果が得られた。 1. ササバモとヒロハノエビモを用いたアブシジン酸(ABA)栽培において,両種はともに沈水葉に気孔が分化したが,ABAが関与する環境(低温,塩,吸水)ストレスでは,ササバモのみ気孔が分化した。 2. ABA合成の律速酵素NCED(9-cis-epoxy-carotenoid dioxygenase)遺伝子は,ヒルムシロ属では4種類あり,葉ではNCED2と3が発現する。環境ストレス条件下の沈水葉におけるNCEDの発現量は,ササバモでは高く維持されていたが,ヒロハノエビモではストレス処理1日目のみ,一過的に上昇した。 3. ヒルムシロ属には気孔形成に重要な転写因子ICE (inducer of CBF expression)が2つ存在し,それらの発現量は気孔の分化する処理条件で高く維持されていた。 これらを総合すると,2種間における表現型可塑性の違いは,環境ストレス応答性(耐性)の差異に起因すると推定された。ササバモは浸透圧ストレスに応答してABA合成と転写因子ICEの発現を高く維持し,陸上環境に適した気孔をもつ葉を誘導する。一方,浸透圧ストレスへ耐性が強いヒロハノエビモは,高ABA合成が継続せず,気孔のない沈水型が維持されて汽水域にも進出可能である。転写因子ICEは気孔形成だけでなく低温応答でも重要な役割を果たすことより,本研究は表現型可塑性と環境応答の発現ネットワークの解明においても重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一目標は,ササバモとヒロハノエビモの2 種における低温ストレス耐性と転写因子ICE が関与する気孔形成の違いを明らかにすることである。本年度は栽培実験により,種間のストレス耐性や気孔分化の違いの概要を明らかにすることができた。また,ストレス応答と気孔分化に重要なNCEDとICEについては,遺伝子の単離・同定と発現解析はできた。しかし,ストレス応答や馴化に重要なABA依存系の転写因子,AREB/ABF (ABA-responsive element-binding protein/ABA-binding factor) やABA非依存系の転写因子,CBF/DREB (cold-binding factor/dehydration responsive element binding)などの遺伝子の単離・同定はまだ修了しておらず,NCEDとICEがどのように関連してストレス応答性の種間差が生じているかは明確にはできていない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画のように,前年度に引き続きササバモとヒロハノエビモを材料として,環境ストレス解析と気孔分化の種間差を生じさせた系を解析する。前年度の研究において,二種類のICEや四種類のNCED遺伝子の部分配列を決定し,その発現状態の違いを示したが,それらは配列保存性の高い部分であったためアリルを区別することができなかった。また,AREB/ABFやCBF/DREBは分子種が多く,ヒルムシロ属においてこれら遺伝子の配列を従来の縮重プライマーを用いたPCR増幅で単離することは困難であった。今年度はこの問題を解決し,研究を効率よく行うため,次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子配列の取得と発現定量解析を最初に実施する。材料は陸上植物と同様な低温ストレス応答を行うササバモを用い,低温ストレス処理と未処理コントロール25℃の沈水葉から全RNAを抽出し,業者に委託してHiSeqを用いたシーケンスを実施する。これによってえられたストレス応答遺伝子の配列情報をもとに,近縁種間におけるストレス応答を比較解析する。
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