研究実績の概要 |
沈水性の水草には,陸上と水中で生育する両生種と水中のみで生育する沈水種がある。前年度の研究より,ヒルムシロ属の両生種ササバモとこれに近縁な沈水種ヒロハノエビモはともに植物ホルモンアブシジン酸(ABA)により気孔を持つ陸生葉を分化する能力を持つ。しかし,塩ストレスにおいて両生種は陸生葉を誘導するが,沈水種は誘導しないことが明らかとなっている。 本年度は成葉と若葉におけるABA合成系の律速酵素遺伝子NCED1-6と気孔形成に重要な5種の転写因子のmRNA発現量を比較した。両生種ササバモではストレスにより成葉のNCED5と6が増加し,若葉の気孔関連遺伝子の発現量が増加した。淡水から汽水域に生育する沈水種ヒロハノエビモでは,このような応答は見られなかったが,成葉において気孔形成にかかわる転写因子のうちストレス応答性のICE1とSPCH遺伝子が恒常的に発現していた。シロイヌナズナでは渇水による浸透ストレスでSPCH遺伝子がメチル化されて発現量が減少し,環境の悪化に対する葉の成長の抑制に働くことが報告されている。本研究の耐塩性をもつ沈水種において,塩による浸透ストレスでSPCHが発現して正常な生育が維持されることは,植物のストレス応答と成長制御ネットワークを考えるうえで興味深い。本成果は現在,日本植物学会会誌に投稿中である。 低温や水ストレス応答に関与する遺伝子を探索するため,両種の成葉を用いてde novo RNA sequencingを行った。その結果,ササバモでは77,921,420断片の配列が得られ,タンパク質に翻訳される可能性のある152,759配列,ヒロハノエビモでは62,843,045断片,139,692配列が得られた。NCEDなどの配列情報は先の投稿論文の解析に使用した。
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