水草は環境変化に応じ、陸上で生育可能な陸生葉と水中では気孔やクチクラ層を欠く沈水葉を形成する性質(異形葉性)を持つものが多い。ヒルムシロ属植物を用いた研究により、異形葉性を示さないヒロハノエビモは、これに近縁で異形葉性をもつササバモと同様に陸生葉を作る能力をもつが、ストレスへの応答性が異なることが明らかとなった。つまり、塩ストレス耐性の低いササバモではアブシシン酸(ABA)が蓄積して陸生葉が誘導されるが、汽水域にも分布するヒロハノエビモは耐塩性が高く、生理的に順化して形態は変化しない。 このような塩ストレス耐性に加え、ヒロハノエビモとササバモはその分布域の違いより温度への耐性も異なる。低温の影響を調べるため、低温順化栽培(水温、明25℃-12時間、暗15℃-12時間)を行った。その結果、ササバモは低温よりABAが誘導されて水中で陸生葉を形成したが、低温順化するにつれて沈水葉が作られるようになった。また、沈水葉を低温処理(5℃、4日)し、その耐性をクロロフィルバイオアッセイ法で比較したところ、ササバモはコントロール栽培 (25℃、一定) に比べ、低温順化により低温耐性が向上した。一方、ヒロハノエビモでは低温順化栽培による形態変化や低温耐性の向上は認められなかった。この温度耐性の違いは、すでに報告した高温応答の結果と類似する。両生種のササバモは、陸上で生育する植物と同様に温度の季節変化に順化し、高温や低温の耐性を向上する能力を持つ。しかし、温度変化が比較的緩やかな沈水生活を営むヒロハノエビモは温度順化能が低い。両種の違いを生み出す要因のひとつとして膜の不飽和脂肪酸含量が考えられ、de novo RNA sequencingとRT-PCRにより、葉緑体の温度耐性や強光阻害かかわるいくつかの脂肪酸デサチュラーゼの発現量がヒロハノエビモでは低いことが示された。
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