研究課題/領域番号 |
25440210
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
春本 晃江 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (80198936)
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研究分担者 |
洲崎 敏伸 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00187692)
飯尾 英夫 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80145771)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 原生生物 / 接合 / 種分化 / 有性生殖 / 性フェロモン |
研究概要 |
原生生物繊毛虫ブレファリズマには相補的な接合型IとIIがあり、これらの細胞が水中で出会い有性生殖である接合を開始する。このとき、それぞれの接合型が出す性フェロモン(ガモン1とガモン2)がお互いを誘引し、細胞に形態変化をうながし接合対へと導く。ガモン1は分子量約3万Daの糖タンパク質で、ブレファリズマの種の生殖隔離に重要な働きをすると考えられ、形態的に遠い種ではガモン1は作用しない。一方、ガモン2はセロトニンに類似したアミノ酸誘導体であり、すでに構造が決定されている。本研究の目的は、①繊毛虫ブレファリズマにおけるこれらの性フェロモンの機能と作用機構を明らかにすることである。具体的には、ガモン1受容体およびガモン2受容体の細胞での局在を明らかにすること、ガモン2合成経路を解明し、ガモン2合成に関わる遺伝子を同定すること、また、相手の型のガモンによって活性化された細胞では、接着面に近い細胞質中には多くの微小管や小胞構造が現れることが報告されているが、これらの更に詳しい電子顕微鏡的観察を行う。また、②ブレファリズマの種が分化してきた道筋を探ることである。そのために、ブレファリズマの株の採集と培養および種の同定を行い、株を確立し、種を同定する。その株を用いて、ガモンの接合対誘導作用の解析を行う。また、それらの株を用いてさまざまな種の18SrRNA遺伝子やヒストン遺伝子等を調べることにより、ブレファリズマの系統関係を明らかにする。これらの研究を通して、性フェロモンがどのように種分化に関与してきたかを分子レベルで考察することを目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① 繊毛虫ブレファリズマにおける性フェロモンの機能と作用機構を明らかにする課題に関して。我われは、ガモン2と構造が類似した5-OH-L-tryptophan(5-HTP)がガモン2の作用を拮抗的に阻害すると考えられる結果を得た。もし5-HTPがガモン2受容体に結合しているとすると、抗5-HTP抗体を用いて I型細胞がもつガモン2受容体の局在が調べられると考え試みた。その結果、ブレファリズマが接合対を形成する際に接着する口部膜板帯の基部に強いシグナルが検出された。このシグナルがガモン2受容体の局在を示しているかどうかは更に検証していくことが必要である。ガモン2はトリプトファンから3段階を経て合成されると推定されており、これらに関わる酵素のうち、2段階目までは既存のトリプトファン代謝に関わる酵素を用いていると考えられるので、それらの候補となる酵素IDOおよびTDOの遺伝子の単離を進めている。 ② ブレファリズマの種が分化してきた道筋を探る課題:新たにブレファリズマの株を野外から採集・研究者からの譲渡・ストックセンターからの購入により得て、形態的に種を同定した。それらの株を用いて18SrRNA遺伝子、ヒストンH4遺伝子、COI遺伝子を単離し塩基配列を調べて、ブレファリズマにおける系統樹を作製した。また、II型細胞が分泌するガモン2の作用には種特異性はみられず、種や大核のグループを超えて作用することを明らかにした。またガモン1は、少なくとも大核のグループ特異的に作用すること、ガモン1の効果とアミノ酸配列の相同性には相関があることを見出した。さらに、異なる大核のグループに属する株を、それぞれ特異的なガモンで処理して活性化した細胞を混合し、どのような組み合わせで接合対ができるかを調べたところ、グループII とIII 、IIとIV間では、異なるグループ間の接合対はほとんど形成されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
繊毛虫ブレファリズマにおける性フェロモンの機能と作用機構を明らかにする課題:5-OH-L-tryptophan(5-HTP)と抗5-HTP抗体を用いたI型細胞におけるガモン2受容体の検出をさらに進め、 5-HTP がガモン2受容体に結合しているかどうかを検証する。ガモン1抗体を用いて、同様にII型細胞におけるガモン1受容体の局在を検証する。さらにガモン1およびガモン2受容体を単離する試みも行う。ガモン2の生合成経路の解明に向けて、さらに遺伝子の単離を進める。また、相手の型のガモンによって活性化された細胞では、どのような形態変化が見られるかを、更に詳しい電子顕微鏡的観察を行って明らかにする。 ブレファリズマの種が分化してきた道筋を探る課題:さらに多くのブレファリズマの株を得て、種の同定を行い、さらに多くの18SrRNA遺伝子、ヒストンH4遺伝子、COI遺伝子HSP90遺伝子等を単離し塩基配列を調べて、ブレファリズマにおける系統樹を作製したい。また、ガモン1の作用の特異性について再検討し、ガモン1の作用とガモン1のアミノ酸配列との間の相関について、さらに解析を進める。また、グループIIIとIVの間でも活性化した細胞を混合し、接合対ができるかを調べると共に、異種間の接合対でも核変化が進行するかどうか、また子孫は形成されるかを調べたい。これらの結果をもとに、ブレファリズマの種が分化してきた道筋を考察したい。
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