最終年度においては、シオガマギク属のタカネシオガマ列植物およびエゾシオガマに関する分子系統地理学的および分類学的な研究を進めた。前者のタカネシオガマ列植物に関する研究においては、研究年度の1・2年目において行った台湾および国内のサンプリング調査から、台湾において3集団、国内においては九州の阿蘇や人吉地方などから4集団のサンプルを用いて行った。分子系統地理学的な解析を進めた結果、台湾集団と九州集団は葉緑体DNAにおいてほとんど違いがなく、核ITS領域を用いた解析においても両集団の単系統性が示唆された。日本と台湾という地理的に離れた集団の近縁性が示されたことは、アジア大陸辺縁における植物地理学的知見として大変興味深い。また分類学的な取り扱いに関しては、これまで台湾集団はタカネシオガマとして扱われることが多かったが、いわゆるタカネシオガマではなく、九州集団のツクシシオガマの種内分類群として扱うべきとの学会発表を行った(日本植物分類学会、2016年3月)。 一方、後者のエゾシオガマに関する研究においては、葉緑体DNAや核rDNAのITS領域の解析から、日本国内において少なくとも3つ以上の系統が存在することが明らかとなった(北海道系統、東北系統、本州中部系統)。この結果は、これまで発表されてきた他の高山植物のパターン(北方系統と本州中部系統の2系統性)とは異なる歴史を本種が持っている可能性を示唆しており、日本の高山植物の歴史を考えるうえで大変興味深い結果を得ることができた。また系統間の交雑による影響と考えられる結果も得られた。たとえば谷川岳の集団においては核DNAでは本州中部系統に入るものの、葉緑体DNAでは東北系統に含まれるような個体が存在していた。この結果は、過去に両系統の浸透性交雑現象があったことを示唆しており、過去の集団サイズの増減の中で引き起こされたものと考えられる。
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