研究課題
基盤研究(C)
本研究では,原始的な社会をもつクモバチ(キマダラズアカクモバチ)を用いて,’社会性’の進化的起源について明らかにする.特にメス間の社会行動に注目し,行動観察や遺伝解析などを総合した多面的研究により,社会性の適応的意義を探求する.本研究の成果は,ハチ目がなぜ(真社会性を含む)社会性を進化し得たか,という社会性進化の問題に関する重要な知見をもたらすと期待される.1.野外におけるメスの行動観察:キマダラズアカクモバチの集団営巣場所において,メスの行動を観察した.巣口付近でのメスの間には優劣行動が見られた.すなわち,優位個体が劣位個体を触角でたたいたり,その上にマウントしたりした.もっとも激しい場合は,取っ組み合いが起こり,巣の下に落下してもさらに争いを続けた.しかし,いずれの場合も攻撃は一時的であり,抑制的である.というのも,劣位個体は通常,すぐに姿勢を低くし,不動となるからである(フリージング).この行動が示されると,優位個体の攻撃も止む.したがって,これらの優劣行動では儀式化がかなり進んでいるといえる.個々のメスが獲物(ハエトリグモ)を巣口に運び込む記録を10日ほどにわたってとった.多くの例では,メスがそれぞれ個別の巣口の中に獲物を運び込む.しかし,少数例では,時間を違えて,複数(2または3)のメスが同じ巣口内に獲物を搬入した.また,1個体が獲物を巣口内に運び込もうとしたが,中に他個体がいたために,しばらくの間獲物を運び込めない例もあった.これらの例は,複数のメスが1つの巣に共存し,それらの間に個体間干渉があり得ることを示している.2.個体間の血縁度の調査:上記の例中,特に複数のメスが同じ巣口に獲物を搬入した場合に注目し,それらのメスをDNA解析用として採取した.また,比較のため,同場所で独立的に営巣していたメスも採取した.これらの解析はまとめて次年度に行う.
3: やや遅れている
研究対象であるキマダラズアカクモバチは貴重種であり,その棲息は今のところ1か所(埼玉県秩父市吉田)しか見つかっていない.ここでは10数個の巣口と20数個体のメスを確認しているが,メス間の関係(特に,同じ巣を共有する関係)を明らかにするのは容易ではない.巣そのものは外部から直接観察できないので,メスの巣外での行動やその巣口出入りの記録を丹念に収集するほかに方法がない.したがって,時間をかけて野外データを集めているところである.個体数が限られているため,DNA解析のためのメスの採取も控えなければならない.毎年.メスを数個体に限って,なるべく営巣後期に採集するように努めている.また,DNA解析の手段も2014年にようやく確立することとなった.以上のような理由で,達成度は当初予想に比べてやや遅れている状況である..
昨年と同様に,野外でのメス間行動やメスの巣口出入りの記録(間接的なデータ)を収集する.今年はファイバースコープを導入し,巣でのメスの直接観察を試みる(直接的なデータ).いくつかの巣は巣口から比較的浅いところにあると思われ,巣の直接観察は可能と思われる.また,間接的および直接的なデータに基づいて,同じ巣に共存する複数のメスを特定し,これらを採取し,引き続きDNA解析を行う予定である.
次年度にやや長期の在外研究を予定しており,そのための旅費を確保する必要性があったためロンドン自然史博物館での標本調査研究のための諸費用
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