本研究は、主に腹足類のムシロガイ類の貝殻上で付着生活するタマクラゲ属ヒドロ虫類について、形態学的・発生学的情報と分子情報に基づき系統関係を明らかにし、特異的な動物を宿主動物として付着生活するヒドロ虫類の種分化の実体解明に寄与することを目的とした。 平成27年度は、継続して収集した研究材料について形態学的、発生学的特徴及び分子情報(CO1、16S)に加え、宿主動物に関しても比較研究を進めるとともに、研究の取りまとめを行った。その結果、サガミシロガサやイゼキトゲニナ、イトカゲギリ属の一種など従来宿主動物としては未知な分類群の腹足類の貝殻にもタマクラゲ属ヒドロ虫類が棲息していることが明かとなり、未記載種と思われるものも含め日本産タマクラゲ属ヒドロ虫類として8種確認することができた。従来本属ヒドロ虫類は4種のみであったことから、この3年間の研究で種数は倍増したことになる。今後さらに調査研究を継続することで、他の腹足類を宿主動物とするタマクラゲ類が発見され、種数は増加すると推察される。また、Cytaeis cf. imperialisにおいては、遊離する時の水温により自由水母(遊離後餌を食べて成熟後配偶子放出するクラゲ)の形態に差が生じることが判明した。このことは、ヒドロ虫類では新知見であり、最も重要な類別形質とされる水母の形態のみでは種の識別が困難であることを示し、ヒドロ虫類の分類学に一石を投じるものと考えられた。さらに、本属を含むタマクラゲ科に関しては、自由水母をもつタマクラゲ属とそれをもたないナマコウミヒドラ属に分類されていた。本研究の分子情報解析により、ナマコウミヒドラ類のなかで退化水母(遊離直後に餌を食べることなく配偶子放出するクラゲ)をもつ種もタマクラゲ属のクレードに含まれるため、タマクラゲ科の属レベルの再検討が必要であるという重要な系統分類学的な知見を得ることができた。
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