本申請研究は、南北両半球の温帯域に隔離分布する種の存在と成因を、渡り鳥による長距離種子散布を仮説として、分子系統解析および遺伝的構造解析を用いて明らかにしようとするものである。28年度は、これまでの継続として、研究材料の収集および解析を行った。主な成果は次の通りである。 カヤツリグサ科ビャッコイ属について、27年度に行った葉緑体DNAと核DNA(ITS)の塩基配列情報を用いた分子系統解析から、フルイタンテス亜属の中でアフリカ/ヨーロッパに分布する種群とアジア/オーストララシアに分布する種群の間での長距離散布が示され、28年度に論文を出版した。 ヒルムシロ科ヒルムシロ属のアルゼンチンで採集された個体について、葉緑体DNAおよび核DNA(5S-NTS)の塩基配列情報を用いた分子系統解析を行った。その結果、本属の2大系統である広葉系群と狭葉系群の交雑種である可能性が高いことが明らかとなり、論文として出版した。 世界中に分布するゴマノハグサ科キタミソウ属について、葉緑体DNAと核DNA(ITS)の塩基配列情報を用いた分子系統解析を行った。その結果、本属はアフリカ南部を分布の祖先形質とし、ヨーロッパ、オーストララシア、アジア、南北アメリカの分布は派生的な位置にあると推定された。そのため、アフリカと長距離隔離している他の地域での分布形成では、アフリカ南部から最初にオーストララシアへの長距離散布が起こったとするルートが最も可能性が高いと推定された。この成果を論文として出版した。
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