本研究では、日本と韓国の大規模干拓周辺海域において、閉門・開門の実施前後に見られる環境変化と、それに伴う底生動物群集の変化を調べることを目的とする。そのため、特に有明海の諫早湾干拓と韓国のセマングム干拓において、潮受け堤防内外の定点で採泥調査を毎年定期的に実施し、そのデータを比較することで大規模干拓事業が周辺海域に及ぼす影響の普遍性を明らかにして、今後の大規模干拓事業によって引き起こされる環境と生物相の変化を予測することを目指している。 本年度は、2017年6月17日と18日の2日間で有明海奥部50定点における採泥調査を行ない、翌6月19日に諫早湾干拓調整池内16定点の採泥調査を実施した。また、8月10日から13日にかけて韓国セマングム海域における採泥調査を行った。有明海奥部では、昨年に引き続きオオシャミセンガイが採集されたり、オヨギピンノの群泳が見られたり、有明海の特殊な生物相が今でも残されていることが感じられたが、50定点の平均生息密度は過去21年間でも2014年・2016年に次いで3番目に低い値となり、最近の有明海奥部における底生動物の減少傾向に歯止めはかかっていない。一方、韓国セマングム海域でも、昨年と同様に水深5 m以上の地点では溶存酸素濃度が1 mg/L以下となる貧酸素状態が観察され、大型底生動物がまったく生息しないデッドゾーンが12地点中8地点で見られた。 両海域とも、依然にも増して底生動物群集の衰退が激しく、もはや開門以外に根本的な改善方法が無いことは明らかである。助成期間中に開門が実施されなかったのは残念ではあるが、今後も引き続き開門前の環境・生物の状態をモニタリングを継続して、開門後の変化に対する同一精度での比較可能な基礎データの収集に努めたい。
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