宮城県北部に位置する浅い湖である伊豆沼においては、堆積物中のメタン濃度と底生生物の安定同位体比の解析からメタン食物連鎖系の重要性が示されてきている。さらに、近年ハス群落が拡大することに伴い湖水中で低酸素濃度の状態が起きやすくなことから、メタン食物連鎖が堆積物中だけでなく湖水中へも拡大している可能性があり、これについて検討することを目的としている。 今年度も昨年度までに引き続き伊豆沼の開放水域とハス群落内の定点において、水温と溶存酸素濃度を測定し、湖水中と堆積物中からメタン濃度測定用サンプルを採集し、ガスクロによってメタン濃度を測定した。今年度を含めた3年間のデータを解析したところ、溶存酸素濃度は夏期に湖水低層で貧酸素になり、この傾向は開放水域よりハス群落内の方が顕著であった。また、水中のメタン濃度はハス群落内の方が開放水域より有意に高く、特に夏期の低層では高濃度に蓄積していた。 メタン酸化細菌群集については、環境DNAからメタン酸化細菌に特異的なプライマーを用いてDNAを増幅し、変性剤濃度勾配電気泳動法によって群集解析を行った結果、水中のメタン酸化細菌群集の組成は季節変化が見られ、ハス群落内の方が開放水域より組成の変動が大きく、メタン濃度や溶存酸素濃度との対応がみられた。また、電気泳動のゲルからいくつかのバンドを切り出しジェネティックアナライザーによって配列を調べたところ、メタン酸化細菌 Mathyloparacoccus 属と相同性が高かった。 動物プランクトンの炭素安定同体比の値は、春に比べ夏から秋にかけて低下したことから、ハスが生育する夏期に湖水中の高濃度のメタンがメタン酸化細菌に利用され、これらが動物プランクトンのエサとしての高く寄与したことが示唆された。
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