研究課題/領域番号 |
25440233
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
西村 尚之 群馬大学, 社会情報学部, 教授 (10387904)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 常緑針葉樹林 / 樹木群集 / 長期モニタリング / 成長動態 / 個体群動態 / 樹種共存 |
研究概要 |
本研究課題はわが国の常緑針葉樹林における樹木群集動態特性の解明とそれに及ぼす中長期的(15~25年)な気候変化の影響に関する知見を明らかにすることを目的とし,大面積長期動態モニタリング手法を用いて、各気候帯(亜寒帯、亜高山帯、冷温帯、暖温帯)に成立する4つの常緑針葉樹原生林に設置された面積1~2haの調査区の樹木群集の時系列的・空間的な変化に及ぼす要因を定量化するための調査・解析を実施した。本研究課題初年度となる当該年度は冷温帯常緑針葉樹林1.2ha調査区と亜寒帯常緑針葉樹林2ha調査区の対象サイズ以上の樹幹の毎木調査を行った.また,各調査地に隣接するアメダス気象統計データが調査区温度環境として有効であるかを検討するために,すべての調査区内に温度記録計を設置して年間を通した林内温度環境の測定を開始した.当該年度は樹木群集の時系列的・空間的な変化に及ぼす要因の定量化に関する解析方針を決定するために,亜寒帯常緑針葉樹林における13年間の樹木群集動態と光環境要因とを関連させた解析を検討した.共存する3樹種(アカエゾマツ・エゾマツ・トドマツ)の死亡率パターンには明確な違いがあり,また,幹直径の成長速度では下層と林冠層で種順位が入れ替わるような成長パターンの違いが認められた.林冠木と下層木(樹高≧1.3m)の個体群動態や成長動態の傾向は3樹種の樹木競争関係(Nishimura et al.,2010)から説明できることがわかった.一方,樹高<1.3mの稚樹個体の成長については一般化線形モデルにより個体サイズ・林冠ギャップ・樹木混みあい程度などを要因に解析した結果,倒木に集中しがちな樹高<1.3mの稚樹間では目立った競争は検出されず,稚樹成長速度を規定する条件として,各個体直上の光環境を決定する要因と光応答に関する種生態特性の相対的重要性が,樹種により異なっているという結論が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は,わが国の常緑針葉樹林における樹木群集動態特性の解明とそれに及ぼす中長期的(15~25年)な気候変化の影響に関する知見を収集することである.それぞれの調査地が日本の各地にあるために,初年度にすべての調査区を対象に現地調査はできず,本年度は当初計画に基づき2箇所で現地調査を実施した.また,過去20年程度の毎木データベースを使用しての解析を行うための方針の検討も初年度の計画通りに実施した.さらに,森林の温度環境を収集するためには年間通しての測定が必要であり,各調査区内に温度記録装置の設置を計画に従って実施済みであり,これに関する解析については年次進行とともにデータが収集でき次第,次年度以降に実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降,順次,他気候帯の常緑針葉樹林に設置した大面積モニタリング調査区における毎木調査を行い,最新の動態データの収集と過去20年程度の毎木データベースを活用して,日本の代表的な常緑針葉樹林の動態特性を整理する.そして,これらの情報からわが国の多様な常緑針葉樹原生林における樹木群集の時系列的・空間的な変化に及ぼす要因を定量化し,一般化できる森林生態学的な知見を確立することを目標とする. 次に,上記のような樹木群集の動態パターンに及ぼす中長期的(15~25年)な気候変化の影響に関する知見を整理するためには,気象統計情報のアメダスデータの有効性を判別し,統一的な基準での解析が必要となる.そこで,特に林内温度環境については,本研究課題期間中に得られる調査区内の温度記録データと調査地に隣接するアメダス観測データとの相関を科学的に説明することを検討する.なお,その場合,標高差による気温低減率(0.55℃/100m)やアメダス観測点の地理的位置なども考慮する.さらに,アメダス観測データからの降水量や日照時間などや,これまでも強く指摘されている台風などの撹乱要因なども加えて統一的・定量的な指標項目を検索して,これらの気候環境因子・気象撹乱因子などが樹木群集のどのような動態パターンに影響し,それらの影響がどの程度の数値として示されるかを解析する方法を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度の25年度の研究計画のひとつとして,改良型プラントキャノピーイメジャーを使用して光環境を計測する手法について試験的な現地調査およびデータ解析を試みる予定であった.しかし,当該年度はギャップデータや全天写真撮影データから得られた林床光透過率の等値線データを活用して解析を検討したことから当初予定額に変更が生じた. この計画に使用する経費は,次年度に再度同様の調査を検討する経費として繰越を行い,現地調査への旅費として充当することを予定している.
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