テナガツノヤドカリが捕食のリスクにどう反応しているかを調べるために、条件の異なる3種類の水槽を準備し、春と夏に室内実験を行った。水槽はまず2つに仕切り、片側は(a)捕食者、(b)同種ヤドカリの死体、(c)何もなし、の3条件に設定し、もう片側にはヤドカリの個体識別を確実にするため12個の円筒状のプラスチックネットにヤドカリを1個体ずつ入れた。個体識別を行うことにより、性や体サイズにより捕食リスクへの反応を比較できる。例えば、二次的性形質である鉗脚が相対的に大きく発達するため捕食者に目立ちやすい大形オスは、そうでない小形オスやメスと異なり捕食者によるストレスを受けやすく、その結果として脱皮により鉗脚を小さくする、また大形オスほど早く脱皮する、早く死亡する等の違いがないかを検証することができる。さらに、以前明らかにした本種のオスの鉗長の季節変化から、春は野外における捕食圧が低いのに対し夏は高いと予測されるため、捕食リスクへの反応が時期によっても異なることが期待される。 このような水槽を(a)~(c)各5個準備し、平成27年度の春と夏に各2ヶ月間の飼育実験を行った。平成26年度にも同様の実験を実施したものの、春の実験には条件の一部に不備があり、また夏には雨量が多く干潟の様子が例年とは異なったため実験用に採集した個体がその影響を受けた可能性があった。それ以外にも方法について更に改良を加えて平成27年に再実験した。 実験の結果、春夏ともに捕食者区での死亡率が高いのは明らかだった。捕食者区で早く脱皮していたり、捕食圧の高い夏の方がより早く死亡したりという印象はあったが、詳細については現在解析準備中である。また、大形オスとそれ以外(小形オスやメス)の比較についても、サンプル測定までは終了しておりこれから解析を行う。
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