研究実績の概要 |
一つのホスト内の共生藻集団に利己的共生者(寄生者)の便乗はあるか?(継続)
【目的】ホストに対し利益供与する藻類(A)の集団に混じって,供与しない利己的藻類(B)が存在するか否かは,細胞内共生の進化を理解する上で重要であり,先行研究ではいまだ明らかにされていない.とくに,細胞内共生の進化における「協調と裏切り」のジレンマ問題を解析する上で重要な課題である. 【方法】前年度までに,約10年間培養したCETマイクロコズムから採取した1つのCテトラ細胞内から分離した8つの藻類細胞に焦点を当て,上記の問題を藻類によるホスト生存率の上昇効果と前者から後者へのアミノ酸供与という視点から解析した.(i)これらの藻類細胞株がテトラヒメナ(2668日目に分離)に対する生存率上昇効果の有無,(ii) 藻類が細胞外に出すアミノ酸の量,(iii)藻類細胞サイズ(体積),をそれぞれ調べ,藻類祖先株の結果と比較した. 【結果】細菌がいない条件下で,藻類の8株のそれぞれをテトラヒメナと共培養した結果,8株中4株はテトラヒメナの生存率を優位に高めた.また,藻類の出すテトラヒメナの必須アミノ酸(11種類)の量に関しては,祖先株との比較,および,生存率上昇効果の有る株と無い株との間において明瞭な関係はなかった.しかし,8株全ての藻類株で祖先株よりも放出するアミノ酸の種類が減少する傾向があり(1株例外),とくにテトラヒメナの非必須アミノ酸の放出量の減少が顕著だった.また,藻類細胞の体積の比較では,ホスト生存率の上昇効果を持つ株は持たない株より,1株を例外として体積が小さかった(祖先株は両タイプの中間サイズ).以上の結果から,ホストの生存率の上昇効果を有する株と有さない株が1:1の割合で存在し,ホストに利益を与える株は細胞サイズが小さく,ホストにとって有用ではない非必須アミノ酸の産出を押さえている特徴が見られた.
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