研究課題/領域番号 |
25440243
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
浦部 美佐子 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (50263421)
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研究分担者 |
吾妻 健 高知大学, 学内共同利用施設等, 名誉教授 (40117031)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遺伝子浸透 / 分子系統 / 種分化 / 寄生 / 宿主特異性 / 協調進化 / 共存機構 |
研究実績の概要 |
本年度は、琵琶湖固有カワニナ類であるハベカワニナとタテヒダカワニナについて、シングルジーンマーカーであるフォスフォーゲンキナーゼ(Pk)群の一つであるアルギニンキナーゼのイントロン(PkInt2)領域による系統解析および雑種個体の検出を行った。従来用いられてきたITS-1領域では、解析した個体のすべてがホモ接合体であり、遺伝子浸透の痕跡はみられなかった。しかし、PkInt2では、解析した個体の大部分がヘテロ接合体であった。サブクローニングによって単独の塩基配列を解読したところ。タテヒダカワニナの塩基配列の変異は種内変異の範囲内であったが、ハベカワニナでは非常に異なる配列をヘテロに持つ個体が見られた。そのうち片方はハベカワニナに特有の配列であったが、もう片方は非固有種のカワニナに非常に近い配列であった。このことから、ハベカワニナ個体群には非固有種カワニナ類の遺伝子が大きく浸透していることが強く示唆された。また、PkInt2による系統解析では、固有種の2群(ハベカワニナ群とタテヒダカワニナ群)は姉妹群となり、ITS-1による解析(タテヒダカワニナ群と非固有カワニナ類が姉妹群)とは異なる結果となった。 ハベカワニナとカワニナの未成熟個体をペアリングし、雑種を得る実験を2年間にわたって試みた。22ペアを作成し、そのうち3ペアから稚貝が得られたが、遺伝子解析の結果、これらはすべてカワニナであり、おそらく野外で既に交尾を完了していたものと思われた。従って、雑種個体はを得ることには失敗した。 タテヒダカワニナに対する感染実験を行い、感染成功した寄生虫を遺伝子同定したところ、大部分がGenarchopsis goppoであったが、少数のG. gigiも感染していた。このことから、琵琶湖固有寄生虫であるG. gigiは、ハベカワニナ種群とタテヒダカワニナ種群の両方を宿主とできることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新規遺伝子マーカーの有用性は確認されたが、まだサンプルサイズが十分ではなく、さらなる反復を必要としている。また、一部の種類の解析しか行っていないため、遺伝子浸透の全体像は把握できていない。 実験室内での雑種個体の作成に失敗したため、当初予定していた感染実験が研究期間内で不可能になった.そこで、改めて野外で近い世代に交雑したと推定される個体を探し、感染実験を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
PkInt2の解析はまだ3種でしか行っていないため、遺伝子浸透の全体像が把握できていない。そこで、本年度は琵琶湖沿岸で同所分布する種のうち、解析未着手のもの(チリメンカワニナ、ヤマトカワニナなど)を分析し、どの種からどの種への遺伝子浸透が起きているのかを明らかにし、また、協調進化の影響を排除した系統樹の作成を行う。 余力があれば、ITS-1等の解析から最近交雑したと思われる個体を選び、Genarchopsis gigiおよびG. goppoへの感染実験を行う。ただし、実験開始は秋~冬になると思われるため、結果が得られるのは来春となる。
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