研究課題
基盤研究(C)
本研究の対象となるメスキートは南米原産の耐乾性マメ科低木で、移植によりサハラ砂漠の東方への拡大防止に一定の成果を挙げた。しかし近年、メスキートは世界各地の乾燥地において分布域を急激に拡大し、地域住民の生活に様々な障害を引き起こしている。一方、一般的に乾燥地の降雨は年ごとに降雨量が大きく変動するとともに、ある時期に集中する傾向が強く、植物の生態に強く影響する環境要因の一つである。申請者らは、この乾燥地における降雨パルスの影響に注目し、実生集団の新たな土地への侵入・定着の成否を左右すると予想される、水分条件の違いに対するメスキートの成長応答特性の解析を続けている。本研究では、不規則かつ集中的に発生する乾燥地の降雨に対する、メスキートの種子の乾燥耐性・発芽待機特性と実生の初期成長特性の検証を目的としている。これまで実施してきた栽培実験の資料を整理・検証した結果、メスキート実生の単一降雨現象に対する反応として、幼根の伸長量は発芽から一週間以内で30㎝に達することが確認された。特に、根系の伸長速度は発芽から54時間で2.8㎝/日、138時間で4.3cm/日に達するとともに、地下部への物質転流率が増加することから、降雨に対する発芽の初期成長応答が著しいことが明らかとなった。また土壌含水率が高いほど根の形状が細長くなることから、実生の定着は運河や河川流域など、水分条件の良好な立地で促進されやすいことが示された。この検証作業に加えて発芽に伴う種子の諸特性を検討するため、環境制御型電子顕微鏡(ESEM)を用いて膨潤過程にある種子の内部構造を観察・検討した結果、クチクラ層、明線を含む二層の表皮、柱状細胞に加えて、細胞形状の異なる二層構造が確認された。またX線回折による種子内容物の成分分析の結果、シードガムの主成分はガラクトマンナン様物質であるという、既存の知見と一致する結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の平成25年度の目標の一つは、灌水(降雨)処理に伴うメスキート種子の膨潤過程での諸特性を解明することであった。この諸特性のうち種子の形態的特徴については、ESEMを用いた種子内部構造の観察を実施し、メスキートの種子はマメ科植物の種皮構造に共通する表皮や柱状構造に加えて、その内側に細胞の形状が異なる二層様構造をもつことを明らかにできた。この結果から、この層状構造のうち特に子葉に接する内側の層が種子の膨潤過程で水を含んでゲル状に変質する層であることが予想された。また、十分に膨潤した種子から取り出したゲル状物質について、X線回折による成分分析を実施した結果、そのシグナルはアモルファス様構造の特徴を示し、既に報告されているガラクトマンナン様物質のものと一致することが明らかとなった。以上のように、種子の膨潤過程における諸特性のうち、内部構造の形態的特徴とその構成成分の概要を把握することができた。
平成26年度は、種子への加水処理に伴う種皮構造の変化について、より詳細な観察・解析を実施する。特に時系列での形態変化、成分組成の推移についての解析を試みる予定である。現在、さまざまな植物の種子の膨潤過程において、十数時間の単位で複数の遺伝子発現がみられることが報告されている。これら既存の知見と対応させるためにも、メスキート種子の内部構造変化に関するより詳細な時系列での解析が必要となる。また種子内部のゲル状物質については、大まかにはガラクトマンナン様物質であることまでは確認できたが、その成分の詳細については不明な点が多い。この解析を進めるためNMRによる成分分析を実施する予定である。今後は、これらの解析を通じて、降雨に対するメスキート種子の乾燥耐性、発芽待機・応答特性の解明を試みる。
残額が少額であるため。消耗品費として使用する予定。
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Arid Land Research and Management
巻: 28 ページ: 242-246
10.1080/15324982.2013.819824.