研究課題/領域番号 |
25440245
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研究機関 | 石巻専修大学 |
研究代表者 |
依田 清胤 石巻専修大学, 理工学部, 教授 (30254832)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メスキート / 乾燥地 / 降雨 / ガラクトマンナン |
研究実績の概要 |
本研究では、世界の乾燥地域において外来侵略性樹種として様々な問題を引き起こしているメスキートについて、新たな生育地への実生集団の定着過程の解析を通じて、当該樹種の分布拡大への対処法を確立することを目的としている。平成26年度は種子の乾燥耐性・発芽待機特性、実生の初期成長特性と、乾燥域に特有の不規則かつ集中的な降雨特性との関連性について検討した。特に実生成長の初発段階となる種子の発芽過程に焦点を当て、発芽の初期段階である膨潤過程における種子内部構造の変化と、様々な浸透圧条件に対する種子の発芽応答を検証し、メスキート種子の乾燥耐性の評価を試みた。 膨潤種子の内部構造を環境制御型電子顕微鏡(ESEM)で観察・検討した結果、種皮の最外部から、クチクラ層、明線を含む柵状構造、葉肉状組織とこれをはさむ上下一層の砂漏(hour-glass)細胞をもつ典型的なマメ科植物の種皮構造が確認された。さらにこれらの構造の内側には細胞形状の異なる二層構造が存在し、とくに子葉に接する内側の層が種子の膨潤過程で水を含んでゲル状に変質する層であることが確認された。またPEG溶液を用いた様々な浸透圧条件で実施した発芽実験の結果、一般的な植物の永久萎凋点とされる浸透ポテンシャル-1.5MPaにおいても発芽率は80%に達し、これより低い浸透ポテンシャルでも高い発芽率が維持された。さらに、上記の浸透ポテンシャル条件下でゲル状物質を除去した種子では発芽率が有意に低下した。これらの結果から、メスキート種子が著しく高い乾燥耐性をもつことが再確認されるとともに、このゲル状物質が種子の乾燥耐性の発現に寄与することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、種子の膨潤過程における種皮構造の変化についてより詳細な観察を実施するとともに、種子への加水操作を通じて、乾燥域の降雨にともなう湿潤~乾燥周期において種子の乾燥耐性に対する種皮内層ゲル状物質の生態的意義を探ることが主な課題であった。 ESEMを用いた種子内部構造の解剖学的解析を通じて、メスキートの種子はマメ科植物の種皮構造の特徴となる複数の形態形質を確認することができた。また乾燥種子への加水操作によって、子葉に接する細胞形状の異なる二層様構造が種子の膨潤過程で速やかにゲル状に変質することも明らかにできた。さらに予備的な検証段階ながら、このゲル状物質は自重の3~5倍程度の保水能力を持つとともに、水分の自然蒸発に比べて保水持続時間が倍加することも確認できた。 一方、今年度の解析項目として計画していたゲル状物質の成分分析については、解明が進んでいない。この原因は、当該物質がガラクトマンナンを主成分とする多糖類からなり、かつその成分組成に関する情報が乏しく、分析手順の絞り込みが簡単ではないためである。この点については蛍光HPLC分析による解析の準備を進めており、現在は試料の精製を含めた前処理の手順について検討している。なお、このゲル状物質には例えば穀類の糊粉層のように発芽に必須の各種植物ホルモン様物質などが含まれている可能性も想定された。しかし供給する水分量が十分であればゲル状物質を除去しても発芽率は低下しないことから、現段階ではこの物質が発芽開始の引き金となる可能性は排除できるものと思われた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までの室内実験を通じて、降雨に対するメスキート種子の乾燥耐性、発芽待機・応答特性において、種子の膨潤にともなって変質するゲル状物質が重要な役割を果たす要素の一つであることを示すことができた。 今後の課題として、野外の自然条件下において乾燥耐性をはじめとするメスキート種子の諸特性に対するゲル状物質の有効性を実証する必要がある。この実証作業にあたっては本研究の対象地となるスーダンをはじめとする乾燥における降雨現象の発生様式と、降雨の前後における乾燥~湿潤周期にともなう実生周辺の環境変動に関するより詳細な把握が必要である。具体的には、降雨の分単位での時系列パターン(発生間隔、日内発生時間、持続時間など)、降雨前後における気温・地温の変動、土壌物性、降雨にともなう水分の土中への拡散と大気中への蒸発の空間動態などの項目について、解析を進める必要がある。同時に、これらの環境変動に対するメスキート種子の応答特性について、生化学・発生遺伝学的な視点からの解析も求められる。近年、発芽にともなうゲル状(粘性)物質の特性については、アラビドプシスをはじめとする様々な植物種についての解析が進められている。しかしこれらの種ではゲル状物質は種皮の外表面に分泌されるものがほとんどであり、種子に内在する当該物質については研究例が少なく、その特性については解明が進んでいない。 本研究は平成27年度が最終年度となるため、これまでの成果をまとめるとともに、上記方針に沿って種子発芽の生理・生化学、発生遺伝学、土壌物理学、水文学などの分野の研究者からなる総合的研究体制を構築する準備を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が少額であるため。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費として使用する予定。
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