研究概要 |
一般的に哺乳類の毛色は、茶褐色であることが多く、その要因として多様な環境の中で隠蔽色として有効であるためとされている。フィンレイソンリス(Callosciurus finlaysonii)は、哺乳類では珍しく鮮明な毛色をしたリスである。タイ南部に生息する4亜種(C. f. finlaysonii, C. f. bocouti, C. f. nox, C. f. cinnamomeus )を捕獲し、背と尾の毛を採取し、個体ごとに毛色の3属性(明度、彩度、色相)を測定した。毛色は、地域個体群の間で異なることが明らかになったが、個体群内で個体変異も見られた。毛色はいずれの亜種においても、雌雄で有意な差は認められなかった。また、年齢が上がることによって、一定方向への測定値の変化はなく、年齢と毛色の関係は認められなかった。ただし、毛色の彩度や明度は葉が茂る雨季の方が落葉する乾季よりも高い傾向があった。また、個体間シグナルの働きをもつ尾の毛は、体の毛よりも、明度が高い傾向があった。以上より、本種の派手な色彩は霊長類のように、繁殖の場面で機能する性選択の結果とは考えられなかった。しかし、種内のコミュニケーションの機能は果たしている可能性があり、近縁種が同所的に生息する熱帯林で同種認識の機能をもつ可能性が示唆された。また、生残率は毛色に関わらず、一定であったため、白や黒などの明瞭な色が、光と影のコントラストが強い熱帯林では、捕食者に対して目立つことは無く、むしろ隠蔽色として働く可能性も考えられた。
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