研究課題/領域番号 |
25440247
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
田村 典子(林典子) 独立行政法人森林総合研究所, 多摩森林科学園, チーム長 (20222127)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 色覚認知 / リス / 種認識 / 毛色多型 / 熱帯林 |
研究実績の概要 |
哺乳類は一般に色覚が乏しく、体毛の色彩も地味であるが、東南アジアに生息するリスの仲間フィンレイソンリス(Callosciurus finlaysonii)は例外的に鮮明な毛色を持つことが知られている。また、地域個体群ごとに異なる毛色を持っている。この色彩は森林内で目立つため、同種個体同士あるいは近縁種間での社会的シグナルとして機能する可能性が考えられる。昨年度は、野外で捕獲した個体の毛色を計測することによって、地域個体群ごとの毛色の違いを定量評価した。本年度の研究では、そうした毛色をフィンレイソンリスがどのように認知しているのかを実験的に調べることが目的である。飼育下でフィンレイソンリス5個体を対象として給餌ボックスを利用した学習実験を行った。近縁種クリハラリス(C. erythraeus)の毛色である灰褐色やハイガシラリス(C. caniceps)の毛色である橙色に対して、本種の毛色である白色、黒色、赤褐色の識別が可能かどうかを調査した。まずは、不正解を灰褐色とし、正解を白として給餌試験を行うと、10回の試験で全ての個体が有意に白を判別する結果となった。次に灰褐色と黒でも全個体が判別できた。しかし、赤褐色に対しては全個体が10回の試行のうち、正解に達することが無かった。次に、不正解を橙色とし、白、黒、赤褐色を正解として実験を行ったところ、全ての個体で白、黒は判別が可能であることが示された。橙色と赤褐色では、個体によっては正解率は低くなったが、識別は可能であることが明らかになった。以上より本種が赤色の判別が困難な二色型色覚を持つことが示唆された。次年度は本種の地域個体群ごとの毛色と、そこに分布するリスの種構成との関わりを解析し、共存する近縁種が毛色によって種認識する可能性を考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の主軸となる、色覚認知実験がすでにほぼ終了しており、今後、野外調査を残す状態となっている。色覚認知実験では、予想通りの結果が得られている。野外調査の調査地点は何カ所かの候補地をすでに決めてあり、現地共同研究者による下調査によって、適切な調査地を選定する予定である。仮に、本年度の野外調査で目的の亜種を捕獲できない場合でも、すでにこれまでに捕獲したデータによって得られた成果で、結論を導くことは可能である。
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今後の研究の推進方策 |
実験では、C.canicepsとC.erythraeus、C.canicepsとC.finlaysoniiがそれぞれ、互いの毛色を認識できることが明らかになったが、C.finlaysoniiとC.erythraeusでは亜種によっては毛色の識別ができないことが明らかになった。そのため、C.finlaysoniiとC.erythraeusが分布を接する地域で野外調査を行い、地域個体群ごとの毛色と、そこに分布するリスの種構成との関わりを解析する。以上より、共存する近縁種が毛色によって種認識する可能性を考察する予定である。
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