研究実績の概要 |
哺乳類の体毛は一般に地味な茶褐色である。しかし、東南アジア一帯に生息するCallosciurus属のリスはカラフルな毛色のものが多い。その中でも、フィンレイソンリス(C. finalysonii)は、全身白色、黒色、赤色などの目立つ色彩で、地域個体群によってその毛色が異なる。捕食者からの隠蔽に適した茶褐色ではなく、本種が目立つ毛色を持つことの生態的意味を明らかにすることが本研究の目的である。仮説として、(1)毛色が同種内の社会的状況でシグナルとして働いている可能性、(2)毛色が同所的に生息する近縁種との間で識別のためのシグナルとして働いている可能性の2点を検証した。タイに分布するC. finlaysonii 4亜種について、体毛を採取し、捕獲個体の体重、性別などを測定後、個体識別し、18か月後に体毛の季節変化および加齢変化を調査した。その結果、体色は個体差が認められたが、体重、性別、年齢、季節との関連性は無く、毛色が社会的な状況で機能する可能性は低いことが示唆された。次に、C. finlaysonii 7亜種および、同所的に生息する近縁種2種(C. erythraeusおよびC. caniceps)を捕獲し、体毛の特性を光学的に解析した。その結果、C. finlaysoniiは種内変異が大きいが、それでも3 種(C. finlaysonii, C. caniceps, C. erythraeus)の間では光学的な特性が明らかに異なることが分かった。したがって、毛色が同所的近縁種間で識別に役立つ可能性は支持された。6個体のC. finlaysoniiを用いて飼育環境下で色識別試験を行なったところ、通常の茶褐色に対して識別可能な毛色は黒、白、橙色であることが明らかになり、目立つ毛色が識別に必須であることが示唆された。
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