研究課題/領域番号 |
25440248
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
佐山 勝彦 独立行政法人森林総合研究所, 北海道支所, 主任研究員 (70353711)
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研究分担者 |
諸岡 歩希 立正大学, 地球環境科学部, 助教 (70635755)
小島 純一 茨城大学, 理学部, 教授 (00192576)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会寄生 / 個体群 / チャイロスズメバチ / 分布拡大 / 生息密度 / 人為的移動 / 宿主転換 |
研究概要 |
チャイロスズメバチは、女王バチが自分では巣を作れないため、他種のスズメバチ(宿主)の巣を乗っ取り、その巣の働きバチを利用して子を育てる「社会寄生種」である。宿主として、モンスズメバチとキイロスズメバチの2種が知られており、モンスズメバチの生息密度は近年各地で減少傾向にある一方、キイロスズメバチのそれは都市部を中心に増加している。チャイロスズメバチは、おもに本州中部以北の山地に分布する稀な種とされてきたが、近年日本国内で急速にその分布域と生息密度を増大させている。本研究では、女王バチが人為的に移動したことと、生息密度の高くなった宿主(キイロスズメバチ)に宿主を転換したことの二つの可能性に着目し、これらが本種の生態的成功(勢力拡大)の理由であるのかを明らかにする。 女王バチの人為的移動の解明においては、誘引トラップ(わな)を利用したDNA解析用試料の採集を北海道と東日本を中心に行った結果、北海道12ヵ所と中部地方1ヵ所でチャイロスズメバチが採集された。北海道内ではこれまでに26市町村で本種の分布が確認されており、今回の調査によって新たに5市町でその分布が確認された。そのほか、本州14ヵ所の試料を入手した。個体群間の遺伝的系統解析に使用する遺伝的変異(遺伝マーカー)を探索するために、ミトコンドリアDNAの遺伝子配列を解析した。その結果、現在までのところ変異がある領域は検出されていない。このことは近年の急速な分布拡大とも一致する。 モンスズメバチからキイロスズメバチへの宿主転換の解明においては、各種文献やインターネットに掲載された情報ならびに野外調査などをもとに、全国における被寄生宿主種のデータを計38件収集し、近年の動向を把握しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誘引トラップ(わな)を利用したDNA解析用試料の採集は、北海道では予定通り遂行して試料の収集もほぼ完了した。本州では中部地方で試料を採集したほか、東日本を中心に14ヵ所の試料を入手した。北海道における調査の結果、道内分布の西限は黒松内低地帯東部付近まで確認されるとともに、1990年代前半に道内11市町村で確認されていた分布域は、2013年までに31市町村に拡大していることが明らかになった。また、個体群間の遺伝的系統解析に使用する遺伝的変異(遺伝マーカー)を探索するために、ミトコンドリアDNAの遺伝子配列を解析したところ、現在までに変異のある領域は検出されていない。したがって、チャイロスズメバチの日本国内での急速な分布拡大が示唆され、各種文献などの記録による傾向を支持する結果となっている。 一方、宿主転換に関するデータの収集については、現在までに被寄生宿主種のデータを計38件収集しており、近年の被寄生宿主種比率の変化の傾向を把握しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
誘引トラップ(わな)を利用したDNA解析用試料の採集は、今後本州を中心に行う予定である。次年度は本州の日本海側地域を中心に採集を行うとともに、本州在住の知人の研究者を通じても試料の収集に努める。また、個体群間の遺伝的系統解析に使用する遺伝的変異(遺伝マーカー)を探索するために、引き続きミトコンドリアDNAの遺伝子配列を解析するとともに、マイクロサテライトDNAにおける多型の解析を開始する。 一方、モンスズメバチからキイロスズメバチへの宿主転換の解明においては、潜在的宿主種(モンスズメバチとキイロスズメバチ)の比率とチャイロスズメバチに寄生された宿主種の比率の変化のデータを整えて可視化し解析するとともに、キイロスズメバチの生息密度の高い地域と低い地域で、チャイロスズメバチに寄生された宿主種の比率を比較し、モンスズメバチからキイロスズメバチへの宿主転換の可能性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度研究費の繰越が約12,000円生じたが、これは消耗品の購入(落札)価格が予定価格を下回ったことが原因である。 今年度研究費の繰越は、次年度研究費と合わせて、消費税上昇分が上乗せされる消耗品等の購入に充てる予定である。
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