1.昨年度までに保全上の重要性が確認された九州北部について、9月に原正利(千葉中央博)、平吹喜彦(東北学院大)、富田瑞樹(東京情報大)の3名で、福岡県の4地域(背振山、古処山、英彦山、平尾台)の現地調査を行い、温帯性樹木の分布状況と植生について調べた。現在、照葉樹林が卓越する同地域においては、温帯性樹木の分布はほぼ完全に山頂部に追い上げられており、東日本で見られるように、温帯性樹木が広範囲で低海抜地に残存することは無かったが、一方、急峻な岩塊地や石灰岩地などには、局所的に多数の種ががまとまって遺存分布する例も確認され、地質、地形条件が重要であると考えられた。 2.花粉分析による植生復元については、長崎県の対馬市佐護川および壱岐市芦辺町で採集した資料について年代測定も実施して解析を進めたほか、11月に壱岐市勝本町で追加的堆積物試料を採取し、対馬市上県でボーリング可能地の視察を行った。これまでの分析結果から、対馬暖流が及ぶこれらの地域は、照葉樹林のレフュージアとなっていたと推定される一方、最終氷期盛期に成立していた針葉樹林から、温帯性の落葉広葉樹林ではなく、草本植生へと変化する例も認められた。これらのことから、国内においても、最終氷期以降の気候温暖化に伴う植生変化パターンには大きな地域差があり、現在の植物分布も、このような植生変遷パターンの違いによってもたらされていると考えられた。 3.全国的な分布データベースの作成と保全上の重要地域の絞り込みについては、さらに文献等の調査を進めた。
|