頭蓋形態小変異の出現率には生育環境だけではなく、遺伝的な要因も強く関わっている可能性が先行研究で示唆されている。そのため、頭蓋形態小変異は日本列島住民の形成過程を解明しようとする試みにも応用され、成人頭蓋を対象とする研究では縄文時代と弥生時代の間に様々な小変異で出現頻度に大きな違いがあり、弥生時代以後は現代まで変化が小さいことが明らかにされている。本研究では、これまであまり研究対象とされてこなかった未成人骨を調査することで、今まで曖昧なまま残されてきた頭蓋形態小変異の成長・発育変化を明らかにし、小変異の中でもどれがより遺伝的な要因を強く反映しているのか、すなわち系統を論ずるのに相応しいかを検討した。2013年度から4年をかけて日本各地の研究機関に収蔵されている0~19歳までの縄文/続縄文時代人骨146個体、弥生/古墳時代人骨74個体、現代日本人骨98個体の調査を行った。保存状態が比較的良い現代日本人のデータで年齢別の出現頻度を比較した結果、0~5歳までは年齢ごとに様々な小変異で出現率に大きな変化がみられたが、6~11歳と12~19歳の間では、ほとんど差がみられなくなることが明らかになった。そこで、集団ごとに6~19歳のデータを一括して先行研究の成人データと主要5項目(眼窩上孔、舌下神経管二分、内側口蓋管、頬骨横縫合、顎舌骨筋神経溝骨橋)について比較を行った。その結果、弥生/古墳時代集団では現代人との間に大きな違いは認められなかったものの、成人とやや傾向が異なり、縄文/続縄文集団との間でも大きな違いが認められなかった。一方、縄文/続縄文集団と現代日本人の間では、成人と同様に大きな違いが認められた。分析結果についてはさらなる検討が必要だが、本研究によってこれまで形態小変異の研究でデータから除外されてきた未成人骨についても、分析資料として使える可能性が示唆された。
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