研究実績の概要 |
反響定位は舌打ち音や白杖タッピング音等を音源とする反響音で環境を認識する技術で、視覚障害者の単独移動に非常に有用である。しかし、技術体得は容易でなく、訓練方法も確立されていない。そこで本研究は、反響定位に効果的な放射音と訓練方法の開発を目的とした。 H25年度は簡易吸音ハウスの作製とイヤホンによる反響音聞き取りシステムを構築した。H26年度は効果的な放射音の開発のために、長さ1m秒のパルス状純音を放射音とし、距離定位(範囲0.5~2.5m)に効果的な周波数を0.5~12kHzの範囲で調べた。その結果、4kHz前後が効果的であった。H27年度は4kHz+8kHz(同音圧)の合成音を用い、屋外(グラウンド)で距離定位訓練を実施した。アクリル板(縦135×横90×厚0.3cm)を被験者正面1,2,3,4,5mのどこかに置く、又は板なしの6条件をランダムに提示し、距離又は有無を回答させた。各条件10試行を10日(ほぼ連日)行なった。被験者はアイマスク着用の晴眼者3名とした。その結果、板なしと距離1mの正答率は約1で、2mは0.7~0.9であった。3~5mは0.5~0.7と低かった。訓練期間の前半と後半の正答率に有意差はみられず、この期間での訓練効果は低いと考えた。そこで正答率の低い3~5mに集中して訓練を行うこととし、2名について4日間実施したところ、内1名の平均正答率は0.66から0.92に有意に増した。 以上、本研究により周波数4kHz+8kHz、1m秒のパルス状音での反射板の距離定位は可能であること、訓練は近距離から長距離まで一括して行わず、定位が比較的難しい長距離に集中する手順が効果的であることが推察された。標本数を増やすため本研究は継続中であり、今後は3~5mの訓練を続けた後再度1~5mでの成績を調べて、この手順が全距離での定位力向上につながることを検証する予定である。
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