研究課題
本研究では、世界各地における人体硬組織(ヒト抜去歯牙)に含まれる各種元素の同位体比を計測し、出身地域推定のための統計学的検討を行っている。試料の収集は、順調に進んでいる。国内試料に関しては既に全国各地域の自衛隊の病院、医務室歯科から抜去歯牙の収集を行う体制を確立している。国外試料においても、既に、フィリピン共和国、パプアニューギニア独立国、サウジアラビア王国において、それぞれ試料収集済みとなっている。上記試料の分析についても、東京大学総合研究博物館、総合地球環境学研究所、国立科学博物館の質量分析計を用いて計測を順次進めているところである。これら得られた分析結果をもとに、先の大戦の戦没者遺骨鑑定を想定し、現地住民、米国出身者及び日本出身者の3群間の鑑別について検討を行っている。エナメル質中の炭素、酸素の安定同位体比を引数としたロジスティック回帰分析の結果では、戦前生れ日本出身者と米国出身者の判別で100%の正答率が得られたのに対し、戦後生れ日本出身者との分別正答率は73.7%に止まった。この差は、戦前・戦後の日本人の食習慣の急激な変化により炭素同位体比の上昇が起ったことによるものと考えられる。戦没者世代では日米の分別は高精度に行えるものの、国内の現代人遺骨の安定同位体比分析による出身地域推定を行う場合、その年代情報を勘案する必要性があることが示された。また、現地住民と日本人戦没者の分別に関しては、エナメル質中の炭素及び酸素同位体比での分別は難しいものの、亜鉛、カドミウム、ウラン等の元素濃度分析の値でパプアニューギニア、フィリピン、日本間でそれぞれ有意な差を認め、当該地域で収容される遺骨の分別を行う際の多変量解析の因子として有効となる可能性が示された。以上のように、研究は順調であり多くの知見がえられている。今後さらなる進展が期待できる状況である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Forensic Science International
巻: 261 ページ: 166.e1-166.e5
doi: 10.1016/j.forsciint.2016.02.010. Epub 2016 Feb 13.
http://www.geocities.jp/ego_isotope/page400