葉緑体は二酸化炭素同化をおこなう重要な細胞小器官であり、糖、アミノ酸および脂質代謝に欠かせない場である。また核ゲノムとならび、遺伝子導入を行える重要な標的ゲノムでもある。ところが、葉緑体ゲノムへの遺伝子導入技術は、モデル植物であるタバコを除いて、イネなどの主要農作物については実用化に至っていないのが現状である。そこで、本研究ではゲノム遺伝子を自在に改変するゲノム編集技術を応用し、未だ汎用的な技術に至らない農作物葉緑体ゲノムへの遺伝子導入法を確立することを目指す。 平成26年度に作成したCAS9タンパク質の葉緑体移行を蛍光観察によりレポートする葉緑体移行シグナル+CAS9+GFP融合遺伝子(tp+Cas9-GFP)を用いて、作製した融合Cas9ヌクレアーゼが、葉緑体に移行するかどうか検証をおこなった。アグロインフィルトレーション法を利用した一過的発現系によりタバコ本葉に導入を行ったところ、tp-Cas9-GFP遺伝子を導入した場合にのみ、葉緑体へのGFP蛍光が観察された。そこで、タバコ葉緑体ゲノムの標的に相当するgRNAターゲット配列をデザインし、アグロ員フィルトレーション法により、tp-Cas9-GFP発現カセットとgRNA発現カセットを同時に発現させ、タバコ葉緑体ゲノムの切断および変異導入が起きるか検証をおこなった。葉緑体へのGFP移行は認められたが、葉緑体ゲノムDNAの切断とそれに伴う変異導入は認められなかった。 アグロインフィルトレーション法による導入効率の問題もあるため、引きつづき導入効率を高める手法による検証が必要である。また、Cas9とともにgRNAを効率よく葉緑体に移行させる手法の開発も有効であると考えられるため、tp-Cas9タンパク質とgRNAを予め混合させ、Cas9タンパク質の葉緑体移行を利用し、効率化を図る実験系の確立を行っていく必要があると考えられる。
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