研究課題
人類の主要な栄養源である種子胚乳は、極めて特異な様式で発生する。重複受精によって生じた3nの核相をもつ胚乳原核は、細胞質分裂を伴わずに分裂を続け、多核体を経て胚乳組織が形成される点である。しかし、イネの胚乳初期発生に関しては、組織・細胞学的知見がある一方、その制御に関わる遺伝学・分子遺伝学的知見は極めて少ない。本研究は、胚乳初期発生に異常を持つイネ無胚乳変異体の解析を通して胚乳初期発生の制御機構に関する知見を深化させることを目的とする。当初計画のenl3変異体の解析を昨年度断念した代わりに新規に同定したenl7変異体の解析を進めた。enl7の種子は、殆ど胚乳が発達しないレベルから、表面にはしわや凹凸、くびれなどの外見上の異常を示すがある程度の発達を示すものまで異常の程度に大きな幅を示す。本年度は共焦点レーザー顕微鏡観察を中心とした解析を行った。比較的よく発達する変異体種子でも、胚乳細胞数は顕著に減少していが、特に発達の程度が悪い種子では、発生初期(野生型で3-4DAFの段階)以降の細胞分裂が停止し、細胞の肥大と細胞死が起きていた。よって変異体では胚乳発生初期の細胞分裂の速度低下や停止が起こっていると考えられた。比較的発達のよい10 DAFおよび乾燥種子のenl7胚乳外層ではアリューロン(AL)様細胞の層数の増加や細胞分裂面の乱れが観察されるとともに高度に液胞化した細胞や細胞死を起こした細胞が、分化したデンプン性胚乳(SE)細胞との間に観察され、外層での分裂能を持ったSE前駆細胞形成が進まず、液胞化や細胞死、あるいは複数層のAL様細胞形成が起こっているものと推測された。ENL7は胚乳外層における細胞の分裂・分化に重要な働きをする遺伝子であると予測され、ENL7の分子的同定によりイネ胚乳発生初期における細胞分裂・分化の制御機構に関する有益な知見が得られることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
enl3変異体の解析は断念せざるを得なかったが、新規に同定したenl7変異体の解析が進んだ。
enl7変異原因遺伝子の分子的同定と機能解析を進める。
次世代シーケンサーの試薬系バージョンアップが遅れ、解析を翌年度に回したためその分の相当する予算を保留した。
すでに次世代シーケンサのバージョンアップ試薬が利用可能になったため、27年度はじめに解析を開始する。保留した予算をこれにあてる。
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