研究課題/領域番号 |
25450006
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
向井 康比己 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30110795)
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研究分担者 |
鈴木 剛 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (10314444)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラン科植物 / 四倍体 / エピジェネティック / メチル化 / ヒストン修飾 / GISH / BACライブラリー / CENH3 |
研究概要 |
Vanda、Ascocentrum、Rhynchostylis、Neofinetiaの4属に由来する植物の交雑によって作られた多元雑種9系統の染色体数とそのゲノム構成をGISH法で調べた。その結果、二、三、四倍体の3種類が存在し、構成ゲノムを明瞭に識別することができた。Neostylis Pinky New Star とDarwinara Blue Starは両親種のゲノムを2セットずつもつ4倍体であることが分かった。また、それらのゲノム提供二倍種についてコルヒチン処理により四倍体の作製を試みるとともに、育種家から購入して解析した。 上記四倍体において、四倍体になった時にエピジェネティックな変化が起きたかどうか、既知のヒストン修飾抗体を用いた免疫染色実験や、染色体においてDNAのメチル化がどの程度起こっているか、抗メチル化シトシン(5mC)抗体を使ったFISH実験で調べた。倍数化によってユークロマチンおよびヘテロクロマチン領域の量的な変化をH3K4me1抗体とH3K9me1抗体を用いてそれぞれ検出したが、前処理を行わないために中期染色体像が得られず、比較することが困難であったが、間期核において分布パターンに差異が見られた。 本研究で使用する染色体マーカーや動原体配列のクローンを得るために、バンダ系基本2倍種の2種を選び、バクテリア人工染色体(BAC)ライブラリーを作成した。N. falcataにおいては、ストックしたクローン数は21000個、平均インサートサイズは75kbで、これは0.67ゲノム分をカバーすることになる。R. coelestisでは、ストックしたクローン数は10600個、平均インサートサイズは51kb、カバーした情報量は0.21ゲノム分であった。BAC FISHの結果染色体特異的なシグナルが得られたので、染色体マーカーとして今後利用できる。 次年度以降、動原体の解析が重要となるので、そのためのセントロメア構成要素の実験を開始し、今年度はN. falcataにおいて、セントロメアに特異的なヒストンH3(CENH3)遺伝子の構造を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の実験計画では、①ラン科植物(バンダ亜連)の四倍体の作製、②免疫染色によるエピジェネティックなクロマチン動態の研究、③バンダ系基本2倍種のBACライブラリー作成の3テーマであったが、研究の過程で動源体の解析が必要になり、年度途中でこのテーマを4番目のテーマとして追加した。第4の課題については研究代表者の別プロジェクトで動いていたが、プロジェクトの更新が叶わなかった。次年度以降の動原体に関する実験においてセントロメアのプローブが必要であるので、このために本年度から、これを第4テーマとして、研究を進めた。幸いにも、ラン科で初めてセントロメアに特異的なヒストンH3(CENH3)遺伝子の構造の全長を世界で初めて決定することができた。第1テーマに関しては、今後の実験に必要な4倍体は、購入したものも含めて最小限確保できたので、おおむね順調に進展していると言える。 第2テーマに関しては、エピジェネティックな変化を可視化するための、ヒストン修飾抗体を用いた免疫染色実験において、前処理を行うことが出来ないので、根端分裂組織での中期染色体を得るのが非常に困難であった。そのため、染色体レベルでのエピジェネティックな変化を明瞭に判断することが出来なかったので、来年度も引き続きこの研究を続けなければならない。 第3テーマに関しては、2つの種においてBACライブラリーを作成することができ、目的を十分達したと考える。また、これらのライブラリーはラン科植物のDNAレベルでの研究に広く使われると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、いくつかの属間雑種系統では、構成ゲノムの両方または片方が倍加していることが分かった。特定ゲノムの倍加がいつおこるのか全く不明であるが、減数分裂時の染色体の挙動に多様性が見られ、このことがゲノムの倍加に関係しているかもしれない。この場合、動原体が深く関係していると考えられるので、セントロメアに特異的なヒストンH3(CENH3)やセントロメアDNAの構造の研究に重点をおく必要がある。 ゲノムが倍加した場合や四倍体では、すべてのDNAや遺伝子も倍になるが、遺伝子の発現においては必ずしも倍の発現量になるとは限らない。したがって、DNAレベルのメチル化やクロマチンレベルのヒストンの修飾が大規模におこっていると予想される。今後、エピジェネティックな状態のDNAレベルでの解析を推進し、DNAファイバーFISH法によるメチル化の可視化などの実験に取り組む。 さらに、作製したBACライブラリーを用いてBAC FISHを大規模に行い、染色体マーカーや動原体DNAクローンを得る。これらのクローンはDNAプローブとして、今後の各種研究に有用であるので、この課題も引き続き推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の動原体の解析実験において、セントロメアに特異的なヒストンH3(CENH3)遺伝子の構造を決定したのちに、この遺伝子のアミノ酸情報からN末端ヒストンテール部分のペプチド抗体を作製する予定であった。しかし、作製に数か月を要するため、その作製発注を次年度に繰り越した。そのために、次年度使用額が生じた。 N末端ヒストンテール部分のペプチド抗体の作製費用(外注)は、一件あたり数10万円であると見積もられている。作製されたペプチド抗体を用いて免疫染色を行って、染色体上の動原体に結合するかどうか調べなければならない。アフィニティが低くて結合しない場合は、再発注しなければならない。したがって、主としてこれらの費用に充当するとともにヒストン修飾抗体等その他の抗体の費用に充てる。
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