研究実績の概要 |
パンコムギはA, B, Dの3種類のゲノムからなる異質6倍体のため、それぞれのゲノムには、祖先を同じくする同祖染色体が存在する。パンコムギでは通常、安定的に子孫を残すため、減数分裂中に同祖染色体間は対合しないよう制御されている。この制御に関するPh遺伝子(5B染色体に座乗)を除くと、同祖染色体間で対合が生じる。 そこでまず、パンコムギの異数体系統の中で、5B染色体を持たない系統を準備した。次に、この系統と、昨年度までに育成したパンコムギ染色体片腕と野生種染色体片腕とが動原体で結合したロバートソン型転座の染色体を持つ系統とを交配し、世代をF2まで進めた。 このF2集団について、以下の3段階で選抜を行った。1.野生種由来の種子貯蔵タンパク質をもつ系統を選抜した。その過程で、ロバートソン型転座した野生種由来染色体を持つ雄性配偶子は受精時に伝わりにくいことが分かった。2.5B染色体を欠失した個体を選抜した。その割合は、予想される1%未満より多い約12%であった。これは、異数体系統の中でも、染色体の総数がパンコムギの正常染色体数である系統を用いたことで、5B染色体は欠失しているが、正常染色体数の配偶子が多く得られたためと考えられる。3.野生種染色体と同祖であるパンコムギ染色体由来種子貯蔵タンパク質を持つ個体を1と同様に選抜した。 これら3つの条件を満たした個体を種子親、パンコムギの実用品種を花粉親として、交配種子を得た。最終的に、これらの種子のうち、同祖染色体間で対合が生じる可能性があり、野生種由来種子貯蔵タンパク質をもつ系統を40個体得ることができた。
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