本課題では,イネの花粉キラーの分子・生理機構を明らかにすることを最終目標として、原因遺伝子の単離同定と分子ネットワークの解明に取り組んだ。H28年度は,S24候補遺伝子の過剰発現個体(ASO-S24OE)とS24ヘテロ不稔個体との交雑後代F2における花粉稔性の評価を実施した。得られたF2系統の一部において,花粉稔性が部分的に回復する個体の分離が認められた。さらにこれらの個体の自殖後代F3ではS24領域の分離の歪みが回復しており,この結果は花粉稔性回復の結果をサポートしていた。また,S24と密接に連鎖する新規遺伝子INKについて座乗位置を特定し,両遺伝子の組換え個体の表現型に基づいて,INKはS24には影響を与えないが,別の花粉キラーS35と相互作用することを明らかにした。S24の相互作用因子EFSの候補遺伝子を導入した組換え個体においても,花粉不稔が回復する個体を見出した。これについては,今後,自殖後代においてさらに表現型を確認する必要がある。S24とEFSは遺伝的相互作用を示すことから,両遺伝子の分子間相互作用の調査を当初計画したが,EFSの原因遺伝子特定が予定より遅れたため,分子間相互作用のデータは取得できなかった。花粉キラーの進化的解析を目的として,S24アリルの多様性評価を実施し,第3のアリルの存在を確認した。本研究によって,S24-EFSのみならず,S35-INKの花粉キラーの遺伝子ネットワークを発見し,花粉キラーの複雑な制御機構が明らかにされた。
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