研究課題/領域番号 |
25450019
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
和田 義春 宇都宮大学, 農学部, 教授 (80201268)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ダンチク / 光合成 / Arundo donax L. / 気孔密度 / 葉の厚さ / Fv/Fm / 耐塩性 / 耐湿性 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,ダンチクの光合成能力について欧州系統としてマルセイユ,クレタ,クロアチアの3系統を加え標準条件下での光合成能力(Po)を再度確認し,ダンチクの光合成能力がC3植物であるイネよりかなり高くC4植物のトウモロコシ並みであることを検証し,さらに,ダンチクの中に系統間差があり,欧州系統の方が日本系統よりも高い光合成能力を持つことを見出した. ダンチクの高い光合成機能の要因について,葉の外部および内部形態の調査を行った.ダンチクの気孔密度(SF)はトウモロコシよりは多く,イネよりは少ない値であった.孔辺細胞長(SL)はトウモロコシより小さくイネより大きい値であった.日本系統の葉の厚さは180~200μmでイネやトウモロコシとほぼ同一の値であったが,欧州系統は約350μmと非常に厚いことが判った.以上の結果から,ダンチク特に欧州系統の高いPoには,単位断面あるいは単位葉面積当たり多くの光合成組織を持つことが関与していると考えられた. 平成26年度には,光合成速度の指標としてクロロフィル蛍光パラメータFv/Fmおよび葉緑素含量としてSPAD値を指標として,ダンチクの耐塩性と耐湿性の評価を実施した.耐塩性については3%NaCl溶液灌水処理を行い,本実験で供試したダンチクは,他の作物と比べ,塩処理後のFv/FmとSPAD値の低下が遅かった.またダンチクは塩処理後新たに展開する葉は多くはないものの,オオムギなどに比べ,草丈伸長量は大きかったことから本実験で用いたダンチク系統は一般的に塩に強いといわれるオオムギよりも耐塩性が高いことが判った.また,ダンチクの耐塩性に系統間差があることが示唆された.耐湿性については,本実験で供試したダンチクは,湛水下でFv/FmやSPAD値の低下が見られず,イネと比較しても遜色のない高い耐湿性を有することが判った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,ダンチクの光合成能力についてダンチクの欧州系統として,マルセイユ,クレタ,クロアチアの3系統を加え標準条件下での光合成能力(Po)を調査し,ダンチクの光合成能力がC3植物であるイネよりかなり高いことを再確認するとともに,ダンチクの中にPoの系統間差があり,欧州系統の方が日本系統よりも高い光合成能力を持つことをみいだした.ダンチクの高い光合成機能の要因について,欧州系統と日本系統を供試して,葉の外部および内部形態の調査を行い,C3植物のイネとC4植物のトウモロコシと比較した結果から,ダンチク特に欧州系統の高いPoには,単位断面あるいは単位葉面積当たり多くの光合成組織を持つことが関与していると考えられた.以上の結果を学会発表した.さらに,平成26年度には,光合成速度の指標としてクロロフィル蛍光パラメータFv/Fmおよび葉緑素含量としてSPAD値を指標として,ダンチクの耐塩性と耐湿性の評価を実施し,ダンチクの耐塩性は,一般に塩に強いとされるオオムギよりも高いこと,また,ダンチクの耐湿性は水稲並みに高いことを見出した.ダンチクの耐塩性,耐湿性のメカニズムについては未検討であるので平成27年度に実施する予定である.以上のように当初予定の研究計画より早く進んでいる部分とやや遅れている部分があるが,全体としてはおおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
ダンチクの高光合成機能には系統間差があり,欧州系統の方が日本系統よりも高い光合成能力を持つことをみいだした.その要因について,さらに,クロロフィル蛍光パラメータ(光化学消光qP, 非光化学消光qNP, 電子伝達速度ETR)から関与する形質の解析を行うと同時に,光合成の窒素利用効率についてもC3植物のイネ,C4植物のトウモロコシと比較解析を行いダンチク光合成の特徴を明らかにしたい.平成26年度の結果からダンチクは耐塩性,耐湿性に優れることをみいだしたので,本年はその要因,特に耐塩性のメカニズムについて検討を行う.塩類障害には,土壌中の塩濃度の上昇に伴う吸水阻害と吸収されたNa+による害作用が関与すると考えられるので,この両面からダンチクの耐塩性を調査する.平成26年度の実験で耐塩性を比較するパラメータとして用いたクロロフィル蛍光値(Fv/Fm)は,クロロフィル含量よりも塩害に対する反応が敏感ではなかったので,光合成能力の耐塩性の評価については,ガス交換法で光合成・蒸散速度を測定し,吸水,蒸散,気孔反応から検討したい.次に,ダンチクの耐塩性について器官別のNaやKの濃度の測定を行い,ダンチクの高い耐塩性についてNaやKの吸収の違いや地上部への移行の違いの面から明らかにする予定である.以上のダンチクの高い光合成能力や耐塩性について,結果の再現性を確認しつつ,メカニズムの解明を行い,結果を取りまとめて公表したいと考えている.
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