研究課題/領域番号 |
25450022
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
加藤 尚 香川大学, 農学部, 教授 (50222196)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | モミラクトン / アレロパシー / 成長抑制 / 作用機構 / 雑草抑制 / シロイヌナズナ / 変異体 |
研究実績の概要 |
モミラクトンはイネのアレロパシー物質として働き,強い生長抑制活性をもつ.申請者らは,モミラクトンの生長抑制の仕組みを明らかにするために,SALK T-DNA-Insertion-line の14,585種のシロイヌナズナから,モミラクトン感受性が高いシロイヌナズナ変異株2種(tt3, ban)と感受性が低い株1種(tt6)を見つけ出した.これらは,いずれもフラボノイドの生合成経路に関する変異体であった.今年度は,モミラクトンがフラボノイド生合成経路に与える影響を,代謝産物の濃度を測定することで検討した.その結果,いくつかの代謝産物の濃度がモミラクトンの投与で増減することが明らかになり,これらのフラボノイドがモミラクトンの生長抑制に関与している可能性があると考えられた.特にケルセチンの蓄積が大きく,モミラクトンはケルセチンの濃度の増加させることで,生長をコントロールしている可能性がある. 更に,シロイヌナズナ野生型の種子,高感受性(tt3, ban)と低感受性(tt6)の種子にモミラクトンを投与し,蓄積量が増加または減少したタンパク質を同定した.その結果,野生型の種子では活性酸素除去に関わる酵素グルタミントランスフェレーゼの蓄積量が増加していたが,高感受性変異体の種子では減少していた.活性酸素は生長抑制に関与することが報告されている.野生型の種子と高感受性変異体の種子ではタンパク質のフォールディングに関わるタンパク質ヒートショックプロテインの蓄積量が減少していたが,低感受性変異体の種子では増加していた.フォールディングはストレスに対する植物の保護に重要な役割を担っている.野生型の種子では解糖系の酵素トリオースイソメラーゼの蓄積量が減少していたが,低感受性変異体の種子では増加していた.この結果から,モミラクトンに対する高感受性には活性酸素が関係し,低感受性にはフォールディングと解糖系が関係している可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネは世界の主要な農作物であり生産性も高く,今後においても世界の食料供給に最も重要な作物である.1990年頃から,化学農薬の使用に頼らない環境配慮型のイネ栽培技術の開発に関する研究が,世界中で広く行われた.その結果,幾つかのイネ品種は,強いアレロパシー物質を環境に放出し,雑草の発芽や成長を抑制することが明らかになった.申請者らは,イネのアレロパシー物質として,モミラクトンが最も重要であることを明らかにした.申請者によるイネのアレロパシー物質としてのモミラクトン再発見の後,独立した幾つかの研究室で,全く異なるイネ品種においても,モミラクトンはそれらのイネのアレロパシー物質として機能していることが明らかになった.しかし,モミラクトンの作用機構に関する知見は世界中で現在まで得られていない.申請者らは,モミラクトンの生長抑制の仕組みを明らかにするために,SALK T-DNA-Insertion-line の14,585種のシロイヌナズナ変異株にモミラクトンを投与した.その結果,モミラクトン感受性が高いシロイヌナズナ変異株2種(tt3, ban)と感受性が低い株1種(tt6)を見つけ出した.これらは,いずれもフラボノイドの生合成経路に関する変異体であった.今年度は,モミラクトンがフラボノイド生合成経路に与える影響を,代謝産物の濃度を測定することで検討した.その結果,ケルセチンの蓄積が大きく,モミラクトンはケルセチンの濃度の増加させることで,生長をコントロールしている可能性がある.更に, シロイヌナズナ野生型の種子,高感受性(tt3, ban)と低感受性(tt6)変異体の種子にモミラクトンを投与し,蓄積量が増加または減少したタンパク質を同定した.今回の研究結果は,シロイヌナズナ変異株を使って,モミラクトンの作用機構を明らかにできることを示唆していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,モミラクトンがフラボノイド生合成経路に与える影響を,代謝産物の濃度を測定することで明らかにする: 申請者らは,モミラクトン感受性が高いシロイヌナズナ変異株2種(tt3, ban),感受性が低い株1種(tt6)を見つけ出した.これらは,フラボノイド合成に関連する変異株であった.これらの中間代謝産物の濃度測定することで,モミラクトンが,フラボノイドの生合成の中間代謝産物濃度に与える影響を検証する.更に,これらの中間代謝産物が,シロイヌナズナの成長に与える影響を明らかにする.ケルセチンは,植物に対して生長抑制活性を持つことが明らかになっている.
更に,フラボノイド生合成関連遺伝子の発現をリアルタイムPCRで明らかにする: フラボノイド生合成系経路の遺伝子発現を明らかにする.モミラクトンを野生株とこれらの変異株に投与し,フラボノイド生合成系経路の遺伝子発現をリアルタイムPCRで検証する. フラボノイド関連遺伝子の転写因子などに与えるモミラクトンの影響を明らかにする:フラボノイド生合成系経路の関連遺伝子は, 転写因子TTG2, PAP1/PAP2により制御されている(Cur Opi Plant Biol 2005;8:272).そこで,これらの転写因子の遺伝子発現に与えるモミラクトンの影響を検証する.
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