本研究は、効率的な窒素施肥によってダイズの子実収量ポテンシャルを引き出すことを目的に一連の実験を行ってきた。昨年度までは栄養器官、特に葉に蓄積された窒素の転流は子実収量に大きく寄与し、その転流は子実肥大中期に起こることを特定した。そして、葉からの窒素流出の影響で葉が老化過程に入り、最終的には成熟期における一斉落葉を起こしていると推察した。 本年度においては、ダイズの葉の老化と葉から子実への窒素転流の関係を明らかにするために、ポット栽培したダイズを用いて、子実肥大中期(R6期)に土壌中の窒素濃度を人為的に変え、子実肥大中期の土壌の窒素供給能力の高低が葉の老化にどのような影響を与えるかを調査した。その結果、低窒素処理区は葉のSPAD値、窒素及び可溶性タンパク質含量が急激に低下し、貯蓄窒素が急激に子実へ転流された兆候を示した。一方、高窒素処理区では、それらの低下は窒素濃度の上昇にしたがって緩和され、特に窒素400ppm以上の区では莢が成熟期になっても葉は緑色のままで、窒素及び可溶性タンパク質含量も低下しなかった。なお、いずれの処理区も子実収量には有意な影響を及ぼさず、窒素濃度の上昇にしたがって百粒重が増加する傾向が見られた。これらの結果は子実肥大中期に土壌よりの窒素供給強化が、葉からの窒素転流による栄養補給を緩和し、葉の老化を遅延したことを示唆した。以上より、ダイズにおいては子実肥大中期に急激な子実成長を満たすためには葉などの栄養器官に蓄積された窒素が強制的に子実に転流された結果、ダイズ植物は葉の一斉老化及び脱落、しいては植物体が枯死するといった一斉登熟性を示すことが実証された。
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