前年度までに、ヒマラヤシーダー落葉中の主な植物生長阻害物質はアブシジン酸であること、主要な土壌(火山灰土壌、石灰質土壌および沖積土壌)中ではその活性が失われないこと、このように活性が保持されるのは、化学構造の立体的な要因から土壌への吸着の程度が低いことがその要因であると考えられることがわかった。本年度は、自然条件下で、ヒマラヤシーダー落葉中にアブシジン酸がどのくらいの濃度で含まれていて、年間を通した変化はどの程度であるか調べることとした。 ヒマラヤシーダー林床における落葉を年間を通して定期的にサンプリングし、その重量を測定した結果、ヒマラヤシーダーは春から夏にかけて多量に落葉することを確認した。その時期の落葉速度は、1平方メートル当たり最大300 mg新鮮重/時の速度であった。対照的に、冬季はその1/10程度まで落葉速度が低下していた。また、ヒマラヤシーダー生葉中のアブシジン酸濃度は年間を通して0.003 mmol/kg以下であるが、落葉直後の濃度は季節によって大きく変動し、春から夏にかけては0.005から0.015 mmol/kg程度まで上昇していることが明らかとなった。 これらのことから、ヒマラヤシーダーは植物が繁茂しやすい春から夏にかけて落葉とともにアブシジン酸を林床に供給し、それが土壌吸着により失活されにくいため下層植生の生育を抑え、水や養分の競合を緩和していることが示唆された。
|