本研究では、湿害によるダイズの吸水阻害のメカニズム解明に向けた基礎的知見を得ることを目的として研究を行う。具体的には、根の水透過性を制御する膜タンパク質アクアポリンに着目し、土壌の過湿ストレスがアクアポリン発現量に及ぼす影響と根の水透過性の変化との関係を明らかにする。 昨年度までに根の水透過性測定手法を確立するとともに、ダイズの46種類の細胞膜型及び液胞膜型アクアポリンの中から根で高いレベルで発現する8~9種類の主要遺伝子を特定した。そこで今年度は、過湿ストレスに対する根の水透過性の変動と上記遺伝子発現量の変動との関係を解析した。ダイズを直径9cmのポットに播種し人工気象室内で生育させ、第2複葉展開期にポット全体を湛水に沈めることにより過湿処理を行った。対照区は土壌が乾燥しない程度に定期的にじょうろで灌水した。水透過性の指標となる根表面積当たりの溢泌液量は、湛水処理26~50時間後に処理区が対照区の半分以下に低下したが、処理98時間後には湛水処理区で回復が見られた。根における主要なアクアポリン遺伝子発現量は処理50時間後に湛水処理区が対照区の40~90%程度まで低下し、処理98時間後でも回復しなかった。このことから、過湿ストレスによるアクアポリン発現量の低下が根の水透過性の低下に関わっている可能性が示唆された。一方、長期間の過湿ストレスによる根の水透過性の回復はアクアポリン発現量とは相関がなかった。処理98時間後の湛水処理区個体では、対照区個体や処理50時間後の個体と比較して茎下部から不定根の伸長が多数観察されたことから、根の水透過性の回復には破生通気組織等の発達など根の形態的な変化が関わっているものと推察された。
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