研究課題
基盤研究(C)
リンゴ10品種を用いて約10万個の葯培養を実施した.最も効率的に胚様体を形成する花粉ステージは1核期で,その時の花蕾ステージは中心花紅蕾前期であった.高い胚様体形成率を示した品種は‘祝’,‘世界一’,‘千秋’,‘Starking Delicious’(SD)で,それに次いで‘Gala’,‘GD’,‘金星’,‘つがる’の順であった.胚様体は‘祝’,‘世界一’が7週間目,‘Gala’,‘千秋’が8週間目,‘金星’が9週間目,‘つがる’が10週間目,‘GD’と‘SD’が11週間目から形成が確認された.大きな胚様体は早期に形成される傾向が示され,大きな胚様体ほど発根しやすくシュート誘導が容易であることから,胚様体形成が早い品種ほど倍加半数体獲得(DH)を獲得しやすいことが明らかとなり,効率的なDH獲得の方向性が明らかになった.シュートを形成が容易な品種として,‘千秋’に加えて‘世界一’を選抜したことからDH相互の交配によるF1種子獲得が実現可能となった.‘千秋’の葯培養に由来し稔性を有するDHの‘95P6’を‘Prima’と交雑して育成したF1実生集団を用いてリンゴ果実形質の遺伝解析を行った.分析の結果,酸,果肉色,果汁褐変性,Brixおよび肉質などの食味および日持ち性に係る果実諸形質の相互関係が明瞭になった.このF1集団を用いて‘Prima’の連鎖地図を作成し,連鎖地図を用いて果実形質のQTL解析を行ったところ,果皮色(b値),果皮色(L値),果肉色,酸度,果汁褐変度,収穫適期,果実縦径,果実径縦横比,および糖度で有意なQTLが検出された.酸度および果汁褐変のQTLが高感度で検出された要因は,‘Prima’の保有する対立遺伝子の性質だけでなく,倍加半数体を花粉親とした集団をQTL解析に用いたことにより検出感度が向上した可能性が高く,DHの遺伝解析素材としての有効性が証明された.
2: おおむね順調に進展している
10品種約10万個の葯培養を行った.リンゴの倍加半数体を効率よく作出する条件を精査し,花粉ステージは1核期で、その時の花蕾ステージは中心花紅蕾前期に相当することを明らかにした.胚様体を形成する時期が早い品種がシュートを形成しやすい可能性を示した.また,胚様体の大きさも発根やシュート形成と関係があり,胚様体面積が大きい個体がシュート化しやすい傾向があることを明らかにした.胚様体の形成時期や胚様体形成率,シュート形成率には明らかに品種間差が存在し,胚様体を形成しやすい品種として‘祝’,‘世界一’,‘千秋’,‘Starking Delicious’を選抜したが,そのうちシュート形成が容易な品種は‘世界一’と‘千秋’であった.今年度は‘世界一’と‘千秋’から多数の葯培養由来個体を獲得した.今後、効率的な馴化方法を検討し,圃場条件への馴化を行い開花促進を行う予定である.以上のように目的の開花・結実する倍加半数体100個体の獲得に向けて順調に研究が進展している.また,福島県果樹研究所、農研機構果樹研究所とともに研究を実施している開花・結実する‘千秋’由来の倍加半数体‘95P6’のゲノム解析も進展しており,‘95P6’を交配親にして育成した実生集団の解析によって重要な果実形質である酸度,熟期等の遺伝解析を高精度で実施できることを明らかにした.倍加半数体を用いたリンゴの遺伝解析は世界初であり果樹研究の発展に貢献する重要な研究と考える.以上の成果を園芸学会で発表し成果を広く公表することで学術の発展に寄与している.現在論文を準備中である.
引き続き‘千秋’の倍加半数体を100個体を目標に獲得する目的で,平成26年度も約10万個の葯培養を実施する.効率的に倍加半数体を獲得するための培養条件についてもさらに解析を続ける.また,昨年度までの研究で明らかになった倍加半数体を獲得しやすい‘世界一’についても葯培養を実施し,開花・結実が可能な倍加半数体の獲得を計ることで,‘千秋’由来の倍加半数体と‘世界一’由来の倍加半数体との交雑によってF1個体の作出を目指す.平成26年度はその予備試験として無配偶生殖性を有するリンゴ野生種‘Malus hupehensis’の単為発生種子を用いてガンマ線の照射試験を行う。ガンマ線照射によって,効率的に変異個体を獲得できる照射量を把握する.この研究は農業生物資源研究所放射線育種場に依頼して実施する.F1個体の遺伝子変異系統を作出することでリンゴの遺伝解析の進展に資する予定である.‘千秋’の倍加半数体由来の‘95P6’を用いた遺伝解析,ゲノム解析を引き続き行いリンゴの諸形質の遺伝様式を明らかにすることで効率的なリンゴ育種に貢献する.
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Journal of Japanese Society for Horticultural Science.
巻: 82(2) ページ: 114-124.