植物工場で果樹栽培を行うには,養液栽培技術をはじめ,早期成園化,高品質果実の周年・多収生産を実現する新たな栽培技術体系が必要である.そこで本研究では,まず挿し木当年での果実生産が可能な苗の条件および育成法を検討した.その結果,冬季の低温時に挿し木を行い,底熱処理を行うことにより萌芽時までに十分根系を発達させ,培養液を供給することで挿し木当年から果実生産が十分可能な苗が得られることが明らかとなった.また,これら苗では培養液の供給開始とともに活発な無機成分吸収が開始され,このことは花芽が低位節から形成される要因であると考えられた.このような苗を周年的に育成する方法として,平成26年度には挿し穂を冷蔵貯蔵し,人工低温下で随時挿し木を行う方法を試みたが,挿し穂の冷蔵貯蔵中に全糖およびデンプン含量が低下し,十分な発根量が得られず,十分な果実収量は得られなかった.そこで,平成27年度には冬季に挿し木を行い,十分発根させた苗を萌芽期直前に冷蔵し,1~3ヶ月後に常温下で栽培を開始したところ,収穫期間は8月中旬から3月上旬となり,また果実収量は3ヶ月冷蔵でやや劣ったものの1および2ヶ月冷蔵では無冷蔵とほぼ同等であった. 次に二期作栽培樹の生理生態的特性の解明を試みた.二期作目の新梢では一期作目と比べて明らかに伸長および着果が劣り,二期作目の新梢では茎の全窒素含量および萌芽75日後までの糖含量が一期作目の新梢よりも低く,また,このことは二期作目における新梢低位節における花芽分化不良の要因の一つと考えられた.さらに平成27年度には二期作栽培樹において春季および夏季から栽培を開始する作型で,炭酸ガス施用(1200 ppm)を行った.その結果,炭酸ガス施用により春季から栽培を開始する作型では新梢伸長が,また両作型とも果実成熟が促進される傾向が見られた.しかし,果実肥大促進効果はあまり認められなかった.
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