マンゴー‘Irwin’では、低温(5~15℃)に遭遇すると葉でFlowering locus T (FT)遺伝子の発現量が増加することにより花成が惹起されることが分かっているが、本年度は生育ステージの異なる個体を用いて低温遭遇時のFT遺伝子発現量を調査した。その結果、新梢成長中の個体や結実している個体では、成長休止中の個体と比べて低温遭遇時のFT遺伝子発現量が1/10以下に低下しており、花芽形成率も低くなっていた。樹体要因により樹全体のFT遺伝子発現量が低下すると、花芽形成率が低下することが分かった。一方、同一個体内でも部位によりFT遺伝子発現量が100倍程度違うことが分かったが、発現量の低い枝でも花芽形成しており、同一個体内の枝間で花芽形成に違いがみられる要因はFT遺伝子の発現量ではないと考えられた。 また、秋から初冬にかけての低温によりFT遺伝子の発現を促し、その後、高温条件下に移動するとFT遺伝子の発現は急速に低下した。初年度の実験でも同様の結果が得られているが、初年度には花芽形成がみられなかったのに対し、本年度は約50%の芽で花芽形成が確認された。本年度は高温に移動してから萌芽までの期間が2週間程度と短かったことが花芽形成率の向上につながったと考えられた。つまり、FTタンパク質が有効な期間は比較的短く、萌芽直前までFT遺伝子の発現が高い状態にあることが花芽形成を向上させるために重要であると考えられた。
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