研究課題/領域番号 |
25450056
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小野 義隆 茨城大学, 教育学部, 特任教授 (90134163)
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研究分担者 |
岡根 泉 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (60260171)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ブドウ / サビキン / さび病 / 分子系統 / 地理的分布 / 生活環 / 宿主特異性 / 種分化 |
研究実績の概要 |
1.北アメリカ南部に分布するブドウさび病菌2種について接種試験を行った結果,自然状態でブドウ亜属植物に病原性を持つ菌は,同亜属植物だけに病原性を示すことが明らかになった.本菌は,日本で普通に見られる野生種であるヤマブドウには病原性を示さなかったが,日本に分布するさび病菌に高度抵抗性を示すサンカクヅルには病原性を示した.また,日本での重要栽培ブドウであるデラウエアと巨峰が本菌の感染によって罹病することが明らかとなった.一方,マスカディニア亜属植物に病原性を持つ菌は,同亜属だけではなくブドウ亜属植物にも病原性を示し,やはりデラウエアと巨峰がこのさび病菌に罹病することが明らかになった.これらの接種試験の結果は,アメリカに分布する両さび病菌が日本に侵入することによってブドウ栽培・加工関係の分野に経済的損害がもたらされることが示唆された. 2.日本に分布する2種のブドウさび病菌の地理的分布の調査研究と自然発生したさび病菌を用いた接種試験の結果,野生のヤマブドウでは2種の異なるさび病菌が同一植物体上で同時に感染している事例があることが新たに確認された.本研究ではすでにこの2種のブドウさび病菌は野生のブドウ属の複数種と栽培品種に病原性を持つことを明らかにしているが,本年度の研究成果は,これまで栽培条件下で栽培ブドウにさび病を引き起こすさび病菌は1種のみであるという一般的認識を改めなければならないことを示した.これらさび病菌2種の同時感染の頻度と重複感染の地理的分布はブドウさび病の効果的防除に重要であるために,今後,分子情報を基にしたバーコーディング等で、栽培ブドウさび病にこれら2種がどのように関与しているのかということと、重複感染がどのような地理的な広がりを持っているのかを明らかにする計画である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.アメリカに分布するブドウさび病菌2種の分子系統的研究がほぼ完了し,アジアに分布するブドウさび病菌及び近縁のアワブキ類のさび病菌を含めたサビキン群の系統関係の推定が可能になった. 2.アメリカに分布するブドウさび病菌2種は宿主特異性で識別できるとされていたが,宿主特異性では識別できない可能性が明らかになった. 3.平成27年度のアメリカ調査で,マスカディニア・ブドウのさび病菌冬胞子サンプルを採集できたために,接種試験での生活環解明の可能性が高まった. 4.日本に分布するブドウさび病菌2種の同一植物での同時感染は予想されたが,それが自然状態では現実のことであり,さらに栽培条件下でも起こり得ることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
1.アメリカおよびアジアに分布するブドウさび病菌及び近縁のアワブキ類のさび病菌を含めたサビキン群の系統関係の推定をおこなう. 2.アメリカで採集したブドウさび病菌の冬胞子サンプルを用いた接種試験で本菌の生活環を解明する. 3.分子情報を基にしたバーコーディング等で,日本に分布するブドウさび病菌2種の同一植物での同時感染の頻度と地理的分布を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
北アメリカ南部に分布するブドウさび病菌の生理生態的研究の中で、マスカディニア亜属に特異的に寄生すると推定されていたさび病菌がブドウ亜属植物にも寄生することが判明した。そのため,この寄生性の詳細を接種試験によって明らかにすることが研究遂行上必要となり、計画的に研究使用額を節約し次年度の研究に活用することにした。また、北アメリカ南部でのブドウさび病菌の分布については、南東部での詳細な調査がなされたが,平成28年度に南西部の追加調査も必要になったため,計画的に研究使用額を節約し平成28年度の研究に活用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に収集・保存していた北アメリカ産のブドウさび病菌サンプルを用いて接種試験を行うが、それに必要な器具類に使用する。また、北アメリカ南西部の追加調査の調査旅費に使用する。
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