研究課題
本研究はアジアとアメリカ地域に広く発生するブドウさび病に異なる数種のさび病菌が関与していることを明らかにし,それらの地理的分布と系統関係を推定することを目的とした.研究の結果,日本には系統的に近縁な2種のさび病菌が分布していることが明らかになった.熱帯アジアのさび病菌は新分類群であることと地理的分布の異なる3菌群で構成されていることが示された.アメリカには2種のブドウさび病菌が分布することを再確認し,それらがメキシコ湾岸に沿った狭い地域を境に分布を違えていることを明らかにした.分子系統解析の結果,これら2種は近縁でツタとアワブキ属植物のさび病菌と同一のグループに含まれることが明らかとなった.東アジアおよび東南アジアのブドウさび病菌は近縁であるが,アメリカのブドウさび病菌は系統的に遠く,東アジアに分布するツタさび病菌と直近の祖先を共有することを推定できた.もう一つの目的は,ブドウ科植物さび病菌の宿主特異性・生活環特性と地理的分布を明らかにし,さび病菌の種分化と地理的分布変遷を推定することにあった.本研究によって,温帯アジアに分布する2種は異種寄生性生活環をもつが,精子・さび胞子世代宿主であるアワブキ属植物の種が異なることが明らかになった.それに対して,熱帯アジアおよびアメリカに分布するサビキンはアワブキ属植物に感染せず,精子・さび胞子世代の宿主は不明であった.いっぽう,さび病の伝染に重要な夏胞子世代については,分布域の異なるさび病菌も栽培ブドウに感染し発症させた.分子系統の解析結果と合わせて考察すると,ブドウ科植物さび病菌群は,東アジアでアワブキ属植物に病原性を持つ祖先さび病菌から分化し,ブドウ科植物と異種寄生することを通じて種分化したものと推定した.アメリカの2種のブドウさび病菌は東アジアのツタさび病菌と直近の共通祖先を持つことが推定できたが,具体的過程は不明である.
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Bulletin of the Collage of Education, Ibaraki University (Natural Sciences)
巻: 66 ページ: 5-17
巻: 66 ページ: 19-35
巻: 66 ページ: 37-56
Stapfia
巻: 105 ページ: 161-175