研究課題/領域番号 |
25450058
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
海道 真典 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20314247)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 植物ウイルス / 移行タンパク質 / 複製酵素複合体 / 輸送経路 / カルビン-ベンソン回路 / 宿主因子 |
研究実績の概要 |
Affinity精製と質量分析によって、Red clover necrotic mosaic virus(RCNMV)の移行タンパク質(movement protein; MP)と相互作用する宿主タンパク質として、ベンサミアナタバコのGAPDH-Aタンパク質が同定された。GAPDH-Aは、RCNMVの複製酵素複合体とMPとの間に介在し、効率的なRCNMVの細胞間移行に関与する宿主タンパク質である。 昨年度は、GAPDH-Aと葉緑体において相互作用して複合体を形成することが知られているGAPDH-B遺伝子をベンサミアナタバコからクローニングし、その配列を決定した。また、GAPDH-Bに対するペプチド抗体を作製し、GAPDH-B遺伝子の発現をタンパク質レベルで検出出来る系を構築した。さらに同抗体を用いて、免疫染色法によってGAPDH-Bの細胞内局在性を調べたところ、ウイルス感染特異的にGAPDH-BがRCNMV複製複合体と共局在することがわかった。現在、GAPDH-BがGAPDH-Aと同様にRCNMVの増殖に関与するのかどうかについて解析を進めている。 同じくaffinity精製と質量分析によって、RCNMV MPと相互作用する宿主タンパク質として同定されたGermin-like proteinについて、その細胞内局在が小胞体膜であることがわかった。しかしRCNMV感染特異的な局在性の変化は見られなかった。 RCNMV MPの細胞内輸送経路の解明のため、各種阻害剤やドミナントネガティブ型タンパク質発現系を利用した解析を行ったところ、RCNMV MPはCOP II輸送システムとアクトミオシン系を利用していないことがわかった。現在、アクトミオシン系がRCNMVゲノムの複製に及ぼす影響について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この1年で、GAPDH-Aと関連が深いと考えられるホモログ遺伝子GAPDH-Bのクローニングが完了し、これに対する抗体を用いて特異的なタンパク質検出を行うことが出来るという目途が立ったことで、GAPDH-BとRCNMV増殖の関連性について調査するための下準備が全て完了した。 また、Germin-like proteinの局在性からは目新しい情報は得られなかったが、これをサイレンシングした植物におけるRCNMV MPの局在性に変化が生じるかどうかを検定して、論文投稿へと進める予定である。 RCNMV MPの細胞内輸送経路の探索も、既報の輸送経路を使用しないという現象が明らかとなり、複製への影響と複製酵素複合体形成への影響を調べる予定である。 唯一、MPと相互作用する宿主因子を新たに質量分析によって明らかにするという計画だけは成功しなかった。これはHisとFLAGの二重タグをC末端に付けたMPを植物細胞に発現させて二段階免疫沈降を行うという計画であり、同様の二重タグの付加による宿主因子の単離は、RCNMVの複製酵素タンパク質p27とp88においては非常に成功した方法であった(Hyodoら、投稿中)が、MPでは、おそらくタンパク質の立体構造の問題などで抗体とタグとのアクセスが不十分であったため、望ましい結果を得られなかった。この結果に対しては、以下の「今後の研究の推進方策」欄で対策を考えている。
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今後の研究の推進方策 |
RCNMV MPと相互作用する宿主因子を単離することに成功したが、このときの免疫沈降実験では、二段階精製を行ったことが理由の一つと考えられるのだが、不純物の混入が非常に多かったため、更なる宿主因子の解析を行うには信頼性に乏しいと考えている。そこで、新たに免疫沈降を行う予定である。一つはMPと緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質をコードする組み換えウイルスを発現させる系で、GFP抗体ビーズを用いて全タンパク質画分を用いて免疫沈降実験を行う予定である。RCNMV MP-GFPはウイルス移行機能を有することが分かっており、MP-GFP発現レベルを蛍光顕微鏡観察によって可視化できる利点がある。また抗体ビーズはラクダの抗体を用いるため、非特異的な結合が低レベルに抑えられると評価されている系である。 さらに、細胞間通路であるプラズモデスマータ局在性タンパク質でRCNMVの細胞間移行に関与するものを単離するために、高度に精製した細胞壁画分のタンパク質を直に質量分析にかけて細胞間移行関連宿主因子の同定を行う予定である。さらに同画分と、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)pulldownアッセイによって、GST-MPとin vitroで結合する細胞壁タンパク質を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
二重タグ配列付きRCNMV MPを用いて免疫沈降を行い、共沈する宿主因子の同定を再試行する予定であったが、「現在までの達成度」欄に記入したように、これが予備実験段階で不成功であったため、物品費が当初の想定よりも少額となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
「今後の推進方策」欄に記入したように、今年度はGFPタグ付きMPを用いた免疫沈降実験と、細胞壁画分タンパク質をGST-MPプルダウンアッセイを行う予定であり、次年度使用額欄記入の金額は全て消費する予定である。
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