研究課題
基盤研究(C)
透過電子顕微鏡(TEM)による生物組織の観察には酢酸ウランが不可欠である。本課題では放射性ウランに代わる非放射性重金属染色液の開発を行う。動植物・昆虫・微生物と云った多様な生物の細胞構造・多糖類・膠原繊維を好染するpositive染色液としてHfCl4と希土類の電子染色性を調べる予定である。染色剤の候補としてとしてHfCl4を調べた。調査生物の対象としては未調査の生物種である昆虫を選んだ。重金属染色した細胞構造のコントラストを客観的に評価することは難しい。電顕画像の優劣は染色剤の種類・染色液の溶媒・染色時間・切片の厚さ・温度等の条件や研究者の写真技術によって決まるため科学的に評価しにくい。ここでは電顕像を客観的に評価できる相対的TEMコントラスト比法を考案して利用した。葉とカビに対するHfCl4(MeOH)液のよい電子染色性はすでに報告された。この染色液は細胞構造に加え、細胞壁・デンプン・グリコーゲンも好染したが、一方、欠点も見出された。トラブルは重金属を溶かすMeOHで起こる。MeOHは切片をグリッドに貼り付ける粘着物質を溶かすため、切片がグリッドからかなりの頻度で剥がれて切片観察はできなくなる。また、HfCl4は水を加水分解するため染色水溶液は強酸となり染色性は短期に失われるということも考えられる。これら欠点を見直す必要性から HfCl4水溶液の電子染色性について昆虫中腸を使って調査した。その結果、染色液はpH1.0という強酸になるにもかかわらず、作製後3ヶ月経っても細胞構造・グリコーゲン・膠原繊維は好染した。また、HfCl4染色液の染色性は強酸よりも微酸性(pH4.0)で更に優れていることが分かった。この結果は水溶液の使用により切片はグリッドから剥がれることはなく、HfCl4水溶液の方がHfCl4(MeOH)液より使いやすく広範囲な生物種に応用できることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度はHfCl4を中心に希土類のいくつかについて植物組織を使って新規な重金属染色剤(HfCl4、CeCl3、SmCl3、LaCl3)の電子染色性の予備検討を行った。その結果、HfCl4・MeOH液の電子染色性がもっとも優れていた。しかし、好結果の出たHfCl4・MeOH液には欠点があることが分かった。超薄切片をグリッドに粘着させる物質をMeOHが溶かすため、グリッドへの接着性がなくなりしばしば切片剥離を起こして切片が消失して観察ができなくなる。HfCl4・MeOH液はよい染色効果があるものの、切片観察の低成功率がこの染色液の普及の阻害となっている。HfCl4は水を加水分解してHClを生成して染色液は強酸となるため、HfCl4を水ではなくMeOHに溶解させた。HfCl4水溶液の作製後1週間目くらいでその電子染色性が失われたと云う結果が少数回の実験から得られたため、水溶液の可能性を放棄してMeOHに変更した。染色性の喪失は水溶液の強酸が原因であると初め考えられたが、これは仮説であってまだ検証されていない。強酸による電子染色性の喪失とMeOHによる切片剥離の欠点を改善するため、昆虫組織を使って染色性の検討を行った。その結果、①4% HfCl4と鉛液による二重染色は、昆虫細胞の細胞構造・グリコーゲン・膠原繊維を好染した。②4% HfCl4の染色性は作製後2ヶ月経過しても損なわれない。③4% HfCl4の染色性はpH1.0でも有効であるが、pH4.0あたりで更に効果的であった。4)染まりにくいと云われた膠原繊維はHfCl4水溶液と鉛液の二重染色により比較的染まっていた。これら結果はHfCl4水溶液が電子染色剤として有望であることを示す。本年度は十分な成果が得られたと判断している。
平成25年度の研究は予定とは異なる方向で行われたので、今年度は本来の予定に戻して調査を行う。CeCl3、SmCl3、LaCl3、GdCl3の予備実験はすでに行った。しかし、その調査は不十分であったため明確な結果がまだ得られていない。これら重金属に酢酸ウランと同様の電子染色効果があるのかどうかを平成26年度は詳しく調べる。酢酸ウランには見られない多糖類と膠原繊維の好染性を開発の基準の1つに置いて解析する。また、多くの生物組織の観察に有効であることを証明するため、調査する生物種と組織を増やす予定である。調査組織は双子葉や単子葉の各種の器官、昆虫、カビ、細菌を相対的TEMコントラスト比法で解析して電子染色の効果を調査する。また、塩化ハフニウムのように増コントラスト効果のあった重金属を優先してnegative染色剤として使用できるのかどうか、棒状・球状・紐状の植物ウイルスを使って研究を進める。
設備備品についてはミクロトームを購入した。このミクロトームはすでに研究に使用している。消耗品の中核である試薬・電子顕微鏡ネガ・印画紙については予定したほど消費しなかったので、発注しなかった。また、学会出張や講演についても講演依頼が多く、想定したほど出張費を使わずに済んだ。得られた成果は現在、論文を作成中で、平成26年度に論文掲載料として使用する予定である。平成26年度年度は、調査すべき組織と重金属の種類が増えるため、消耗品の中で印画紙と電子顕微鏡ネガの購入が増えると予想される。また、研究代表者と研究分担者の成果発表のための講演もいくつか予定している。これらの旅費及び論文掲載費に使用するつもりである。
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Applied and Environmental Microbiology
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