研究課題
基盤研究(C)
これまで申請者が同定・解析してきたシロイヌナズナMEKK1→MKK1,2→MPK4経路は、MAMPsにより活性化しファイトアレキシン誘導など、低レベルの防御反応を正に制御することが知られている。一方、mekk1変異体をはじめ上記経路の変異体は、細胞死、ROS蓄積、SA誘導、矮性などを構成的に示すため、当初の予想と反して、これらの防御反応を負に制御するように見受けられた。一見矛盾するこの現象は、上記経路が病原体エフェクターに攻撃された場合、Rタンパク質が細胞死を誘導し感染を阻止する機構が存在する結果であるという作業仮説を立てた。本研究では、免疫反応誘導機構の解明に向けて、MEKK1欠損により活性化するRタンパク質をコードする遺伝子の同定とその解析を行うことを目的としている。これまでの研究から、MEKK1N末端制御ドメインの過剰発現により誘導される矮性形質を抑制する変異体を複数単離していた。そのうち1系統についてMupMap解析を行い、原因遺伝子の候補遺伝子座を2つに絞っていた。平成25年度は、2回目のMupMap解析を行った。先に行った実験結果と合わせて解析を行ったところ、同一相補群において共通に変異が検出された単一の遺伝子が同定された。この結果から、当該遺伝子が相補群Iにおいて最も有力な変異体原因遺伝子の候補であると判断し、本遺伝子をsuppressor of MEKK1 N-terminal regulatory domain overexpressor 1 (SMN1)とした。SMN1遺伝子はRタンパク質をコードしていたことから、仮説が裏付けられた形となった。SMN1遺伝子の同定は、25年度のみならず、本研究全般において非常に意義深いことである。さらにmekk1/smn1二重変異体、およびmpk4/smn1二重変異体を作製した。
2: おおむね順調に進展している
申請書における平成25年度の計画は、1)MEKK1N末端制御ドメインの過剰発現により誘導される矮性形質を抑制する変異体の原因遺伝子の同定、2)mekk1/smn1二重変異体の作製と表現型解析、3)MEKK1とSMN1タンパク質との相互作用解析であった。最初の項目については、smn1変異体の原因遺伝子を複数のアレルを元に同定した。また、アレルのSNP情報を元に、二重変異体作製時の遺伝子型判定を可能にすべく、SMN1遺伝子のCAPSまたはdCAPSマーカーを作製した。さらに、第二相補群についてもMutMap解析を行い、第2染色体に原因遺伝子が座乗する可能性が示唆された。本項目は計画には入れていなかったが、研究の進捗により原因遺伝子同定の可能性が高まったため、本研究の実施項目として組み込むことにした。2番目の項目にあるmekk1/smn1二重変異体作製及び表現型解析であるが、smn1変異体とmekk1変異体を交配し、SMN1遺伝子のマーカーを元に二重変異体を作製した。さらに、次年度以降に実施予定だった、smn1変異体とmpk4変異体との二重変異体作製を前倒しして開始した。smn1/mekk1二重変異体については、矮性形質の抑制が観察された。また、smn1/mpk4二重変異体も作製が完了し、表現型解析を行うため種子を確保すべく栽培を進めている。3番目の項目については、解析に供するコンストラクトの作製を開始した段階である。すでに着手している多重変異体の表現型解析が終了する段階から、研究を本格化してゆく。
今後の研究の推進方策については、多重変異体の表現型解析を重視し、smn1/mekk1変異体、smn1/mpk4変異体の細胞死、活性酸素種蓄積、防御関連遺伝子の発現などを中心に解析を進めてゆく。本研究の計画段階で懸念した、原因遺伝子同定については、MutMap解析が予想以上に機能したため、現段階では特別懸念する必要は無くなっている。表現型解析に関連して、MEKK1N末端制御ドメイン発現用コンストラクトを除いたsmn1変異体も作製し、変異体の耐病性などを評価することで、原因遺伝子が機能欠損変異であるか解析を行ってゆく。また、一連の表現型について、野生型原因遺伝子の形質転換により相補試験を実施し、形質転換体の表現型を解析することで原因遺伝子を最終的に確定する。本研究においては変異体の表現型がやや弱いため、複数の遺伝子がmekk1変異体の表現型に関わる可能性も考えられる。そのため、二重変異体以上の多重変異体を作製し解析することも今後必要になる可能性も十分存在する。その場合は、リソースセンターから変異体を収集するだけでなく、最新のゲノム編集技術なども導入し、多重変異体作製を確実に実施する。また、本研究で同定されたSMN1遺伝子産物とMEKK1→MKK1,2→MPK4経路の構成因子間の相互作用解析も本研究後期の実施項目として設定している。Rタンパク質の相互作用解析は発現量が低い等困難な状況になることが予想されるため、関連する研究者と情報交換を十分に行い有益な情報をなるべく収集し、実験が効率よく行えるよう実験系の改良に努める予定である。今後同定を予定している第二相補群の原因遺伝子によって今後の研究計画を変更する可能性も十分あるため、最適な研究アプローチが取れるよう、臨機応変に研究を遂行してゆく。
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