研究課題
シロイヌナズナMEKK1→MKK1,2→MPK4経路は、MAMPsにより活性化しファイトアレキシン誘導など、低レベルの防御反応を正に制御することが知られている。一方、mekk1変異体をはじめ上記経路の変異体は、細胞死、ROS蓄積、SA誘導、矮性などを構成的に示すため、当初の予想と反して、これらの防御反応を負に制御するように見受けられた。一見矛盾するこの現象を解明するため、本研究では、MEKK1欠損により活性化する表現型の原因遺伝子を同定し、解析を行うことを目的としている。これまでの研究から、MEKK1におけるN末端制御ドメインの過剰発現により誘導される矮性形質を抑制する変異体を複数単離していた。その内、相補群Iに属する複数の変異体系統についてMupMap解析を行い、共通にアミノ酸置換変異が存在した唯一の遺伝子としてSMN1遺伝子を同定した。SMN1遺伝子はNBS-LRR型のRタンパク質をコードしていたことから、仮説が裏付けられた形となった。さらに個々のsmn1変異系統特異的なDNAマーカーを作製したうえで、mekk1変異体及びmpk4変異体と掛け合わせを行い、mekk1/smn1二重変異体、およびmpk4/smn1二重変異体を作製した。mekk1、mpk4変異体で見られる矮性や防御反応表現型について、二重変異体では抑制が見られるか表現型解析を行った。mekk1とmekk1/smn1二重変異体との比較については、シロイヌナズナにおける通常の生育温度では明確な違いが見られなかった。一方、Rタンパク質の蓄積が低下する高温条件では、矮性、細胞死、ROS蓄積、防御関連遺伝子発現のいずれについても二重変異体では部分的な抑制が観察された。また、mpk4とmpk4/smn1二重変異体の場合でも高温条件では矮性の抑制が、通常の温度条件では、細胞死とROS蓄積の両方とも抑制が見られた。
2: おおむね順調に進展している
MEKK1→MKK1,2→MPK4経路構成因子の欠損は、本経路を監視しているRタンパク質の活性化を引き起こすという仮説のもと、サプレッサー遺伝子の同定を試み、NBS-LRR型のRタンパク質をコードするSMN1遺伝子を同定した。また、mekk1やmpk4変異体で見られる矮性を伴った細胞死やROS蓄積表現型について、smn1変異体と二重変異体を作製することで部分的ながら抑制が見られた。この結果はmekk1やmpk4の遺伝子欠損における矮性や防御反応にSMN1が関与することを示している。表現型を元にした仮説の検証はmpk4の遺伝子発現のみが現在解析中であり、それ以外についてほぼ終了しており、研究計画をおおむね達成した。さらに、同定されたsmn1変異系統の対立遺伝子が機能欠損型であるか解析するため、MEKK1N末端制御ドメイン発現用T-DNAを除いたsmn1変異体も作製した。これら変異体の耐病性などを評価することで、原因遺伝子が機能欠損変異であるか解析を行うため予備実験を進めている。MEKK1→MKK1,2→MPK4経路構成因子とSMN1との相互作用についても解析準備を進めている。以上の結果から、計画段階で立てた作業仮説の遺伝学的検証が進み、これを受けたモデルを構築するべく研究が進行している。
今後の研究の推進方策については、1) smn1変異体の耐病性及び細胞死誘導能評価、2)SMN1タンパク質とMEKK1→MKK1,2→MPK4経路構成因子との相互作用、以上について解析を進めてゆく。第一点目については、MEKK1N末端制御ドメイン発現用T-DNAを除いたsmn1変異体を用いて、SMN1が認識する非親和な病原体を接種し、病害抵抗性を解析する。加えて本来誘導されるはずの細胞死が、変異体では抑制されるか種々の方法により観察する。第2点目については、共免疫沈降、BiFC、イーストツーハイブリッド等の方法を用いて、SMN1タンパク質とMEKK1→MKK1,2→MPK4経路の構成因子間の相互作用解析を解析する。一般的にRタンパク質は植物細胞内で過剰発現を試みた場合、細胞死を引き起こしたり、発現できなかったり、実験に困難が伴う場合がある。また、MEKK1についても過剰発現系が機能しない可能性も存在する。このような場合は、ドメイン単位で分断し発現実験を行うことや、イントロンを含むゲノムDNAを用いて過剰発現を行う。以上により、本研究で扱う真核生物由来のタンパク質が大腸菌やアグロバクテリウムなどで毒性を示す等の問題を回避しつつ実施してゆく。以上により、MEKK1→MKK1,2→MPK4経路構成因子欠損が引き起こすSMN1活性化の分子機構について全容解明を目指す。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (6件)
植物細菌病談話会論文集
巻: 26 ページ: 29-37