研究課題/領域番号 |
25450062
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
津下 誠治 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10254319)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イネ白葉枯病菌 / TALエフェクター / タイプIII 分泌機構 / hrp |
研究実績の概要 |
一般に、イネ白葉枯病菌は構造の類似した10数個のTAL (transcriptional Activator Like) effector(TAL)をもち、これらをType IIIタンパク質分泌装置を介して、植物細胞内に直接導入する。それにより、植物の本細菌に対する感受性を増大させる、あるいは逆に植物の防御応答を活性化させることが知られている。本研究で用いている白葉枯病菌MAFF311018系統は、16個のTAL遺伝子(tal)をもち、これらが6つのクラスターにわかれてゲノム上に座乗している。本研究では、細菌系統がもつ個々のTALの病原力や非病原力への関与について明らかにすること、さらにそれらの機能を明らかにすることを目的としている。これまでの成果は以下のとおりである。 (1) これまでに、個々のTALの病原力への関与は大きくないが、複数のtalを欠損させた場合、病原力の低下が認められ、さらにすべてのtalを欠損させた場合、病原力は完全に失われることから、病原力におけるこれらのTALの相加・相乗効果が明らかとした。 (2) TAL-A3とTAL-A4、およびTAL-B3とTAL-C1については、個々の欠損は病原力に大きな影響を与えないにもかかわらず、それらの二重欠損は、本細菌系統の病原力大きく低下させ、これらが病原力において重要な役割を果たしていること、これらのターゲットとする防御機構、あるいはそれに関連する植物遺伝子は同一であることが予想された。 (3) 抵抗性遺伝子Xa1をもつイネ品種に本細菌系統を注入すると、イネの防御応答(HR)が誘導されるが、TALを完全に欠損した変異株ではHRが見られない。さらに、TAL完全欠損株にいずれのtalを導入した株でもHR誘導能が回復されたことから、Xa1を介した防御応答にはTALが関与すること、本防御応答を誘導しない細菌系統では、それを抑制する機構が存在することが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で用いているイネ白葉枯病菌系統には、16個のTAL effector遺伝子が存在するが、それらのいくつかについては顕著な病原力への関与があると予想していた。しかし、それらのいずれもが単独での遺伝子欠損では、野生株とほぼ同様の病原力を示し、個々のTAL effectorの病原力への関与がそれほど大きくなかった。そのため、各表現型の解析が困難であったとともに、複数のTAL effector遺伝子を破壊する多重変異株を多数作成し、それらの病原力への関与を調べる必要がでてきた。これらの変異株の作成と病原力への関与の解析に予想外の時間を費やしたため、当初の計画から遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、本研究で用いているイネ白葉枯病菌系統のもつ16個のTAL effectorのうち、少なくともTAL-A3とTAL-A4、およびTAL-B3とTAL-C1がそれぞれ単独の欠損では、病原力に大きな影響を与えないが、二重欠損により顕著な病原力の低下を示すことが明らかとなった。したがって、これらは本細菌系統の病原力にきわめて重要であり、TAL-A3とTAL-A4、およびTAL-B3とTAL-C1は協同して、場合によっては、同一の植物遺伝子をターゲットとしていることが予想された。今後は、これらに焦点を当て、これらのターゲットとなる植物遺伝子を予測し、その確認を行うことにより、各TAL effectorの感受性誘導における機能を明らかにする予定である。 一方、抵抗性遺伝子Xa1をもつイネに対して、本研究で用いている細菌系統は抵抗反応HRを誘導するが、すべてのTAL遺伝子を欠損した変異株ではこれを誘導しない。また、本TAL欠損株にいずれのTAL遺伝子を導入してもHR誘導能が回復する。一方、他の細菌系統(Q6809株)では、TAL遺伝子を複数もつにもかかわらず、Xa1に依存した抵抗性を誘導しないことを明らかにした。このことから、Q6809株には、TAL-Xa1に依存した抵抗反応を抑制する機構が存在し、これまで本研究で用いてきた細菌系統にはそれが存在しないとの仮説を立てている。したがって、Q6809株においてランダムトランスポゾン変異株を作出し、TAL-Xa1に依存した抵抗反応を誘導する菌株を選抜することにより、この仮説を証明すること、そして、その機構を明らかにすることを今後の目的としたい。
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