最終年度では、植物成長抑制活性の高い二次代謝産物であるヒノキチオールとオクチルアセテートの植物成育抑制機構の解析を実施した。まず、ヒノキチオールでは、イネ幼植物体を用いたプロテオーム解析を実施した。ヒノキチオールを処理するとタンパク質合成や解毒代謝に関わるタンパク質が減少し、特に活性酸素の解毒酵素であるペルオキシダーゼ(POX)やスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の減少が認められた。また、イネ根部でのヒノキチオールによる成育抑制作用は、H2O2の増加により細胞膜の脂質過酸化やDNA傷害によるプログラム細胞死(PCD)が引き起こされることによると推測された。さらに酵素活性試験からH2O2の増加の要因として抗酸化酵素活性の減少によるそれらの消去能の低下が示唆された。また、オクチルアセテートによる植物成育抑制機構の解析では、イネ根部とタバコ培養細胞を用いた検討を行った。その結果、オクチルアセテートは、O2-の過剰生成を誘発し、PCDと細胞分裂停止および膜脂質の過酸化が起こっていたことから、植物の成育抑制はO2-の過剰発生に起因している可能性が示唆された。 本研究課題の3年間の研究を通し、様々な植物種から高い植物成育抑制活性を有する揮発性物質を同定し、それらとその類縁化合物の植物成育抑制機構を推定した。この中で、オイカルボン、クミンアルデヒド、オクチルアセテート、ヒノキチオールの4つの化合物は、いずれも活性酸素の過剰生成を誘発するという共通点が見出された。これらの化合物は、いずれも化学構造中に電子吸引性の高いカルボニル基を有しており、この化学構造が植物体内での活性酸素の過剰発生の要因になっている可能性も示唆された。このような化学構造と植物体内での作用性における知見は、今後の新規薬剤開発に向けての有用な情報となりうるものと考えられる。
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