イネ萎縮ウイルスはツマグロヨコバイに媒介され、イネに感染する植物ウイルスで、その防除のためにはツマグロヨコバイがかかわる伝染環の遮断を講じる必要がある。そのための基礎知見として、ツマグロヨコバイの培養細胞に感染、増殖するために必要な宿主側の因子を明らかにすることを目的に実験を行った。 まず、細胞機能阻害剤をVCMに処理した後、イネ萎縮ウイルスを接種した。接種後、イネ萎縮ウイルスの外被タンパク質をコードする遺伝子を対象に設計したプライマーを用いて、リアルタイムPCRを行い、イネ萎縮ウイルスの増殖量を経時的に計測した。その結果、ダイナミンの阻害剤であるダイナソア、シアル酸分解酵素のノイラミニダーゼ、およびHsp90の阻害剤である17-AAGなどを処理した際のイネ萎縮ウイルスの感染・増殖率は変化がなかったが、Hsp70の阻害剤であるケルセチンを処理した際には感染・増殖率が顕著に低下した。そこでHsp70をコードすると思われた宿主遺伝子の発現をRNA干渉法で阻害しウイルスを接種したところ、ある程度の増殖量の低下がみられたが、阻害剤を処理したほどの低下は見られなかった。そこで、ウイルス感染により変動する遺伝子を詳しく調べることを目的とし、培養細胞にイネ萎縮ウイルスを感染させた後48時間後に培養細胞を回収し、RNAseqを行い培養細胞の遺伝子発現を調べた。その結果、ウイルスを接種した培養細胞と無接種の健全細胞では遺伝子の発現量に顕著な差異は見られなかった。培養細胞に対するウイルスの感染は早いもので接種数十分、もしくは数時間で確立するとされており、48時間後では遺伝子の変動に明らかな差が出なかったことが考えられる。そこで、接種12時間と24時間に再度培養細胞を回収し、RNAseqを行い、その結果を解析している
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