葉緑体は光合成、脂質合成など重要な諸反応が行われる場であり、膜を通して様々な物質のやりとりをしているが全容解明には至っていない。本研究は未解明であった葉緑体包膜プロトン輸送に関与する分子実体の1つはCemA2であるかどうかを検証することを目的としている。昨年度までの成果からCemA2が葉緑体にターゲットされる事、また、AtCemA2機能欠損ホモ系統およびコントロール野性個体から単離した無傷葉緑体緩衝液懸濁液を用いた光照射後のプロトン吸収放出反応の解析から、AtCemA2は光照射後のプロトン放出活性に関与していることが示唆されたが、その寄与率は約半分程度であることが示された。阻害剤を用いた解析からは、これらの放出活性は光合成電子伝達反応と連動して起こっていることが示された。遺伝子発現解析から、窒素同化時における寄与の可能性が示唆されていたため、これらの機能の結果と合わせ、生育にどの程度寄与しているのかを確かめた。硝酸濃度の異なる培地条件で比較検討した結果、植物個体の成長に有意な差は無く、生育には影響を及ぼしていなかった。また、高温ストレス時において発現誘導される事が示唆されているため、温度変化による生育への影響についてなどを検討したが、有意な差は確認出来なかった。以上の結果から、AtCemA2は光照射時の葉緑体内のpHホメオスタシスに寄与しているが、植物個体の生育差が生じるほどまでには影響を及ぼさないと結論づけた。このことは、シアノバクテリアホモログ欠損株では確認出来なかった残存活性による影響によるものと考えている。
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