研究課題
病原菌の中には、III型分泌機構(T3SS)と呼ばれる細胞膜上の複合体により、宿主細胞に病原因子を注入するものが存在する。申請者らは、マメ科植物と共生する根粒菌にもT3SSが存在し、ダイズの共生遺伝子を直接活性化することを明らかにした(Okazaki et al. 2013)。本研究では、T3SSを介した新しいマメ科植物-根粒菌共生経路の解明を目指して研究を行っている。今年度の研究実績の概要は以下のとおりである。1. 根粒菌Bradyrhizobium elkanii USDA61株は、Rj4遺伝子保有ダイズには根粒形成できないが、この根粒形成阻害にはUSDA61株のT3SSが関与している(Okazaki et al. 2009)。USDA61株のトランスポゾン変異株ライブラリーを作成し、Rj4遺伝子保有ダイズに接種したところ、根粒形成する変異株が約20株分離された。変異株を解析したところ、トランスポゾンはシステインプロテアーゼ遺伝子や転写因子など、6種類の遺伝子に挿入されていることが判明した。システインプロテアーゼ遺伝子の上流にはIII型分泌タンパク質に特徴的なtts box配列が存在していたことから、システインプロテアーゼが分泌タンパク質として根粒形成阻害を引き起こしている可能性が示唆された。また、残りの5遺伝子はタンパク質分泌に関わっている可能性が示唆された。2. ダイズnfr変異体(根粒菌シグナルNod-factor受容体の変異体)にUSDA61株と上記1で分離したシステインプロテアーゼ遺伝子変異株をそれぞれ接種したところ、USDA61株では根粒形成がみられたが、システインプロテアーゼ遺伝子変異株では根粒が全く形成されなかった。この結果から、システインプロテアーゼがダイズの共生遺伝子を直接活性化する原因タンパク質である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
III型分泌機構を介した新しいマメ科植物-根粒菌共生経路の解明に向けて最も重要と考えられる、ダイズの共生遺伝子を活性化する根粒菌III型分泌タンパク質(=システインプロテアーゼ)の同定に成功しており、研究は順調に進展していると言える。興味深いことに、このシステインプロテアーゼはダイズ品種エンレイの共生遺伝子を直接活性化する機能を有すると同時に、Rj4遺伝子を保有する一部のダイズでは、根粒形成阻害の原因となっていることも判明した。これらの現象は、植物病理学における遺伝子対遺伝子説(gene-for-gene theory)と類似性があり、今後さらに解析を続けることで共生と病原性の連続性や進化に関する新知見が得られる可能性がある。Rj4遺伝子保有ダイズに根粒形成するトランスポゾン変異株のうちシステインプロテアーゼ変異株以外の5株については、転写因子など5種類の遺伝子にトランスポゾンが挿入されていることが判明した。これらの遺伝子についてはほとんど報告がないため、今後解析を進めることで、III型分泌機構に関わる新規遺伝子として報告できる可能性が高い。
ダイズの共生遺伝子を活性化する機能を有するシステインプロテアーゼについては、III型分泌機構で分泌されることの確認を行うとともに、アミノ酸置換体や欠失変異体作成により機能ドメインの同定を行う。システインプロテアーゼ以外の5遺伝子については、遺伝子発現解析やタンパク質分泌への影響を検討することでIII型分泌機構への関与を調査する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
PLOS ONE
巻: 10 ページ: 1,18
10.1371/journal.pone.0117392
Advances in Applied Agricultural Science
巻: 3 ページ: 1-10
Microbes and Environment
巻: 29 ページ: 370-376
10.1264/jsme2.ME14065.
大豆たん白質研究
巻: 16 ページ: 173-176
http://www.tuat.ac.jp/~okazaki/