研究実績の概要 |
マメ科植物と根粒菌の窒素固定共生は、シグナル物質を介した相互認証により成立する。第一に、根粒菌はマメ科植物の根から分泌されるフラボノイドを感知して、Nod factor(NF)というシグナル物質を分泌する。第二に、NFはマメ科植物根の細胞膜に局在する受容体(Nod factor receptor; NFR)により受容され、これがシグナルとなり根粒形成が誘導される。申請者らは細菌のIII型分泌機構(T3SS)と呼ばれるタンパク質分泌システムを研究する中で、根粒菌のT3SSがダイズとの共生を劇的に変化させることを発見し、さらに、根粒菌のT3SSがNFとNFRからなる相互認証を経由せずに、マメ科植物の根粒形成シグナルを直接活性化することを明らかにした。本研究では、T3SSによるマメ科植物-根粒菌共生における新しい共生経路の解明を目指した。 (1)トランスポゾン変異法により、ダイズとの共生に関わるIII型分泌タンパク質(エフェクター)をスクリーニングし、新たなエフェクター候補遺伝子ORF5208を発見した。この遺伝子は、プロモーター領域にtts-boxと呼ばれるIII型分泌タンパク質に特徴的な配列を持つこと、N末端アミノ酸配列にIII型分泌タンパク質の特徴(Ser, Asp, Glnが多く、Cysが少なく、3、4番目にIle, Val, Ala, Proが多い)を有することから、T3SSで分泌されるエフェクターの有力候補とされた。 (2)Aeschynomene属マメ科植物は、NFを作らない光合成Bradyrhizobium属細菌により根粒が形成される原始的な共生とされている。Aeschynomene属マメ科植物にB. elkaniiを接種したところ、T3SS依存的に根粒が形成されることを見出した。この結果から、T3SSがNFに依存しない原始的な共生系と関連していることが示唆された。
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