研究課題
基盤研究(C)
近年では、植物の必須微量元素であるホウ素の主な機能は、細胞壁ペクチンのラムノガラクツロナンII部分のホウ酸架橋による細胞壁の構造安定化であることが広く認められている。本研究は、この細胞壁のホウ酸架橋率を指標とする作物のホウ素欠乏診断法の開発を目的としている。25年度は、本診断法の農業現場への適用可能性を、ホウ素欠乏が既知のソラマメを対象として検討した。鹿児島県の秋まき春どり作型のソラマメでは、近年、収穫期後半に莢内部の海綿状組織が黒変する生理障害が発生し、この障害がホウ素欠乏によることが報告されている。そこで、黒変障害が発生する阿久根地域と発生が見られない指宿地域の農家圃場から収穫期のソラマメ莢を採取し、莢殻と子実の全ホウ素含量やホウ酸架橋率などを分析し、黒変障害発生との関係を調べた。その結果、ホウ酸架橋率は、健全試料では0.95程度であったが、障害試料では重症化につれて莢殻で0.7、子実で0.4まで低下した。黒変障害の原因はホウ素欠乏であることを考えあわせて、農家圃場のソラマメ莢のホウ素栄養状態は、ホウ酸架橋率の値から診断可能であると結論した。すなわち、分析誤差を考慮すると、架橋割合が低下し始めているといえる欠乏限界値は0.90程度であるから、ホウ酸架橋率の値がそれ以上ではホウ素十分、それ以下ではホウ素欠乏であり、値が小さいほど欠乏程度が大きい。これまで、水耕栽培により実験的に作出したホウ素欠乏植物に対する本診断法の有用性は確認されてきていたが、農家圃場で実際の栽培中に生じたホウ素欠乏作物に適用可能であることが、初めて示された意義は大きい。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的として第1に挙げているのは、ホウ酸架橋率を指標とするホウ素欠乏診断法について、農業現場における各種作物のホウ素欠乏診断への実用性を検証することである。今年度は、本診断法が鹿児島県の農家圃場ソラマメ莢のホウ素欠乏診断に適用可能であることを明確に示すことができた。このように、計画に基づいて順調に進捗している。
鹿児島県を中心とする農業現場における様々な作物について、外観症状などからホウ素欠乏が疑われる試料を収集して、ホウ酸架橋率を指標とするホウ素欠乏診断法の適用性の検討を行う。また、ホウ酸架橋率の分析には、前処理としての細胞壁調製と、細胞壁のペクチン分解酵素処理、および酵素処理により可溶化した架橋RG-IIと単量体RG-IIのサイズ排除HPLC/RI測定を行うが、このHPLC装置は高価である。そこで、最近開発されたポリアクリルアミドゲル電気泳動による架橋RG-IIと単量体RG-IIの分離分析を試みる。
次年度使用額6,458円は、研究費を効率的に使用して発生した残額である。次年度使用額は、次年度に請求する研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Plant Cell
巻: 25 ページ: 1881-1894
10.1105/tpc.113.111500
Plant Physiol.
巻: 163 ページ: 1699-1709
10.1104/pp.113.225995
http://cse.naro.affrc.go.jp/tmatunag/